「役に立つよ」

 明人はレーツェルから離れ、真陽留達の元に戻った。


 真陽留達は彼が戻ってくるのを小屋の中に戻らずに、月を見上げながらずっと外で待ち続けていた。


「あ、相想、大丈夫? 何かされなかった?」


 音禰は不安げに、戻ってきた明人に駆け寄り怪我などを心配した。

 手を伸ばし触れようとするが、その手は彼の頬に触れる前に止まってしまい、そのまま引っ込めてしまう。


「えっと、何が居たの?」


 引っ込めた手を胸元に置き、音禰は明人から目線を外し質問した。


「あぁ、なんでもねぇよ。気にすんな」


 明人は音禰の様子など気にせず横を通り過ぎようとした時、そっと頭を撫でてあげ、そのまま小屋の中に入ってしまった。


「──は。へっ、ちょ、相想?!?!」


 撫でられた事に驚き、頭に手を置き振り返るのと同時にドアがパタンと閉まった。


「ちょっと……」


 顔を赤く染め、ドアの方を見つめる彼女。そんな二人のやり取りを見ていた真陽留は、溜息をつき「素直じゃねぇな」と呟き、それにはファルシーも賛同していた。


 ☆


 小屋の中に戻った明人は、自身のポケットに手を入れた。そして、何かを取り出す。


 それはいつも彼が持っている空の小瓶だった。だが、その小瓶には蓋がついていない。そして、小瓶の側面には、五芒星が書かれた小さなメモが貼られていた。


 それを見つめ、思い詰めたような表情を浮かべる。


「必ず成功させねぇとならない──か。無茶言いやがるぜあの化け狐が……。それに、半分脅してきやがって、くそっ……」


 肩を落とす明人は、険しい表情を浮かべたまま奥の部屋へと消えていった。


 ☆


 次の日、十二時ぐらいに四人は小屋の前に立っていた。


「んじゃ、とりあえず行くか」

「うん、頑張るよ私!!」

「僕もやれるだけはやるけど、失敗したら許せよ?」

「安心しろ、そもそもお前には期待していない」


 真陽留と明人はいつもの軽口を言い合い、四人は小屋の奥を見る。お互いに頷き合い、歩き出した。



 小屋の奥に道は狭いため、ファルシー以外は縦に並んで歩いていた。彼女はいつも通り翼を広げ、悠々と飛んで移動している。


「それにしても、本当に大丈夫なのかしら」

「知らねぇよ。でも、もうここまで来たらダメでもやるしかねぇだろ。確率は最初より高くなったはずだ。話し合いの内容を忘れんじゃねぇぞ」


 ファルシーの言葉に明人が答える。それに対し、二人は小さく頷く。


 そのまま奥へと進んでいくと、先程まで明るかった道は徐々に暗くなっていき、蛍のような光が飛び交い始める。


「わぁ、綺麗ね」


 音禰はこの光景を見るのは初めてだったため、楽しげに笑いながら周りを見回し、幻想的な光景を楽しんでいた。


「そうだな。嵐の前の美しさだな」

「そうね。もしもの時はここで──なんてね」


 険しい顔を浮かべながら明人は言い、そのまま道を進んでいく。すると、目の前に洞窟が現れた。

 そこからは冷たい風が吹いており、先程まで楽しげに周りを見ていた音禰だったが、その洞窟に目を向けた瞬間、顔を青くし明人の後ろに隠れるように移動した。


「まさか、この中に居るの?」

「居るだろうな。最奥辺りに」


 目を細め、明人は洞窟の奥を見る。真陽留も険しい顔を浮かべながら洞窟の中を見ていた。


「凄い力ね。これがあの狐さんの力。私でも敵うか分からないわね」


 ファルシーは自身の体を摩り、警戒心むき出しで洞窟内を覗く。そんな三人を見て、音禰も体を震わせてしまう。


「音禰、今ならまだ間に合う。怖いなら先に小屋に戻っていていいぞ」


 明人が後ろに隠れている音禰を横目で見ながら、心配そうに問いかける。その目を見て、彼女は少し考え顔を俯かせる。だが、すぐさま覚悟を決め明人から離れた。洞窟の出入口に立ち、長い茶髪を翻し、振り返る。


「私は必ず、明人や真陽留の役に立つよ。だから、行こう!!!」


 堂々と笑顔で宣言する音禰に真陽留と明人は少し驚いたが、すぐに肩を落とし薄く笑みを浮かべた。


「まったく。音禰は凄いなぁ」

「これがまさに猪女」

「おいっ!!!」


 明人の言葉に真陽留が怒り、いつも通りの会話が飛び交った。

 音禰もまだ体を震わせていたが、そんな会話を目にして笑いが込み上げ。口元に手を置き、吹き出した。


「あははっ。これから命を懸けるはずなのに、なんでそんないつも通りの会話が出来るのよ」


 笑いながら音禰が口にしたため、真陽留は困ったような笑みを向け、明人は舌打ちをし顔を背けた。


「それじゃ、覚悟も決まった事だし、早速中に入りましょう?」


 片目をパチンと閉じ、ファルシーは三人に笑みを浮かべ中に入るよう促す。それを見て明人は一言「キモッ」と口にしたため、怒りの鉄槌が落とされた。

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