「堕天使って事ね」

 明人は、いきなり入ってきた少女に怪訝そうな瞳を向けた。


 その少女は、カクリと身長が変わらない。ウェーブのかかった金髪に、緑色の瞳。右目の下には星マークが書いてある。

 白いベストに、中は黄緑色の長袖。緑色の長ズボンに、膝まで長い革のブーツを履いていた。

 まるでどこかの執事をやっていたかのような立ち居振る舞いと凛々しさ。


「てめぇは何もんだ?」

「私はファルシー。今回の貴方の仕事っぷりは拝見させていただいたわ。すごいわね、手際がいい。それに、しっかりと自分の欲しい物はゲットか。うん、さすがとしか言えないわね」


 床で気絶している綾音に目を向けながら、ファルシーは口元に手を持っていき、クスクスと楽しげに笑いながら口にする


「ファルシー……。ファル──ルシファー……。あぁ、なるほど、堕天使って事ね」


 明人はファルシーの話し方や内容を耳にし、面倒くさそうに眉を顰める。そして、嫌味を含んだような口調で言い放った。


「そんな事言うなんて酷いじゃない。確かに私は堕天使よ。でも、そんなのはどうでもいいわ。私は貴方に一つお願いしたい事があっ──」

「断る」


 ファルシーの言葉を最後まで聞かずに、明人は即答で断った。それはさすがに予想外だった彼女は、「え?」と抜けた声を漏らす。

 カクリはそんな二人の様子を横で見つつ溜息をつき、頭を支えてしまう。


「あの、話ぐらい──」

「断る」

「いや、話を聞くだけでも──」

「無理だ」

「少しの時間でおわ──」

「おかえり願いマース」


 まともに取り合う気がなく、明人はどんな言葉も全て断っている。それにはファルシーもどうすればいいのかわからなくなり、苦笑いを浮かべながらカクリに助けを求める目を向けた。


 助けの目を向けられたカクリは、大きな溜息をつき明人に向き直す。


「明人よ」

「無理だ」

「……人の話は最後まで聞くのだ。あやつは人間ではない。少しでもこちら側の有利になる情報を持っている可能性がある。それに、堕天使を敵に回すと後々面倒臭い。今でさえ様々な問題を抱えているのだぞ。これ以上増えるのはごめんだと思うがね」


 カクリが説得するように淡々と言うと、明人は目線をファルシーに向けた。その視線に、ファルシーは期待を込めた輝かしい目で見返した。


「──生理的に無理だ」

「そこまで言わなくてもいいじゃない!! 話だけでも聞きなさいよ!!」


 彼の冷酷な反応に、我慢の限界になったルファルシーは声を荒らげ指をさす。何を言っても意味が無いと察し、明人はため息と共に「分かった。少し待ってろ」と奥の部屋へと消えてしまう。

 何しに行ったのか分からないファルシーとカクリは顔を見合せたが、とりあえず戻ってくるのを待つ事にした。


 ☆


 依頼人であった綾音は、 無事家族の元に返す事が出来たが、人形のように動かなくなってしまった娘を見て、両親は気が狂ったのかと言うほど暴れ回ったらしい。

 明人は「暴れ回った姿を見る事が出来なかったなんて、残念だなぁ」といつものニヤついた影のある笑みで呟いていた。


 その後、明人はファルシーの話を聞くためソファーに座り直し、片膝に肘をつく。


「そこはお客人の席じゃないの?」

「お前は客人じゃねぇから使わせる義理はねぇ」

「いじわる」

「なら帰れ」


 明人はファルシーに全く興味が無く、適当にあしらっている。隙あらば帰らせようとするため、彼女は口元を引きつらせた。


「いつもこんな感じなの?」

「依頼人の前以外ではこんな感じだな」

「貴方も大変ね」

「まったくだ」


 カクリとファルシーの会話に、明人は眉をピクピクと動かし、不機嫌丸出しで「話すなら話せ」と口にする。

 これ以上怒らせてしまうと、もう話は聞いてくれないと思ったファルシーは、急いで話を切り出した。


「えっとね。私、貴方の呪いを解く事や記憶集めを手伝いたいとおも──」

「断る。話は以上だな、それじゃ失礼する」


 無理やり話を終わらせ、彼はそのまま立ち上がろうとした。だが、ファルシーがズボンを掴み行かせまいと制する。


「待って待って行かないでよ!!! 理由はあるの!! お願い聞いて!!」

「ズボンを掴んでんじゃねぇわ!! 脱げるだろうが!!」

「脱げてもいいから話は聞いて!!」

「〜〜〜いい加減にしろ!!!!」

「アンギャ!!!」


 明人が怒りを拳に込め、ファルシーの頭にゲンコツを落とした。相当力が入っており、小屋にゴツンという音が響いた。

 カクリは近くで音を聞いていただけだが、咄嗟に自身の頭を抑え不安げに眉を下げる。


 ゲンコツをもろに食らったファルシーは、その場に蹲り頭を抑えていた。明人も、こんなに力が入るとは自分でも思っておらず、右手を抑えている。相当痛みがあるらしく、二人は無言。カクリだけが困惑の表情を浮かべ、二人を交互に見ながら立っていた。


「とりあえず、話をしよう」


 カクリがこの場を落ち着かせようと冷静に言うと、それが合図のように明人は再度ソファーに座り、ファルシーは羽を動かし空中で胡座を作り、座っているような体勢を作った。


「頭、痛い。やっぱり貴方は人間ではない」

「七十八%人間だ、堕ちた天使」

「堕天使と言って──じゃなくて、私の名前はファルシーよ!! 名前で呼んでくれてもいいじゃない」

「わかったからさっさと話せ糞天使」

「ファルシーだってば!!」


 そんな会話が続き、カクリは呆れた表情を浮かべながら、二人の会話が終わるのを首を長くして待った。

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