ファルシー

「全ての点が繋がったわ」

「私は、貴方の行動を少し見させてもらっていたの。貴方は素晴らしい頭脳と、それを利用できるほどの行動力、想い。呪いが体を蝕んでいるとは思えないほどよ。だから、今の貴方をここで殺すのは惜しいと考えているわ。私は、貴方に生きていて欲しいの」


 ファルシーは胸に手を当て、興奮し始め頬をほんのり赤く染めながら話す。それを明人はどうでもいいように、目線を逸らしながら聞いていた。


「お願い。私は、貴方を手伝いたいの」


 再度お願いするも、明人は頷かない。興味なさげに明後日の方向を見ている。そんな微妙な空気感を崩したのは、カクリの涼しい声だった。


「手伝うと口では言えるが、具体的には何をするつもりなんだい?」


 カクリの言葉に、ファルシーは待っていましたと言わんばかりに目を輝かせ話し出す。それを、先程よりげんなりとした表情になった明人は「うげっ」という声を漏らした。


「私は、貴方に呪いをかけた人を知っているのよ!!! だから、まずその人を教えて──」

「ベルゼっていう悪魔だろ?」


 ファルシーの言葉を当たり前のように明人は遮る。その事により「へっ?」という抜けたような声が漏れ、ポカーンとしたようなアホ面で彼女は彼を見てしまった。


「えっ──と。ならなら、貴方の記憶を奪ったのは?! さすがに知らないわよね!? あのね、その人は──」

「悪陣魔蛭」

「おじ──へっ?」


 またしても同じやり取りをする二人。カクリは頭を抱えてしまい、呆れて物が言えない状態。明人は無表情のまま、ジト目でファルシーを見る。


「な、なんでそれも知ってるのよ?!」

「いや、何で逆に知らないと思ったんだよ。俺達の事見てたんじゃねぇのかよ」


 明人は呆れ声で口にし、ファルシーは口をパクパクと動かし何かを言おうとしている。だが、結局は何も言えず口を閉ざしてしまった。


「もう手伝える事は無いらしいな。なら、帰れ」


 頭を掻きながら言う明人。だが、ファルシーはその場から動こうとしないで、じっと空中で座り続けている。腕を組み、何とか明人に認めて貰えるような情報がないか思い出そうと、百面相を浮かべながら必死に考え込んでいた。


「なら、ならなら!!! これならいかがかしら?!!」

「うるせぇわ。どうせ俺の知ってる情報だろ」

「うっ。そ、そうかもしれないけど、とりあえず聞いて欲しいの!! これが一番伝えたい情報だから!!」


 必死に食らいつくファルシーに、明人はハエでも払うように手でシッシッと払う。それでも彼女もめげずに訴え続けた。

 カクリはもう諦め、話が進むまで待とうと思い。椅子に座り、続きの本を読み始めた。


「……はぁ。なら、さっさと言えよ。直ぐに遮ってやる」

「そう簡単に遮られないわよ!! こほん。ズバリ、貴方の過去の記憶は今、病院で寝ている女性が持っているわ!!」


 自信満々に、宣言するように言い放つファルシーだが、少し不安げに体を震わせている。また、明人の知っている情報なのだろうかと心配していた。だが、高々と宣言にしてから、明人は何も話さなくなる。

 何も言われない事が逆に気になり、ファルシーは目をちらっと向ける。


 明人はファルシーの言葉を耳にし、そのまま顎に手を当て考え込んでしまった。


「あ、あの。どうしたの?」


 思っていた反応じゃなかったため、ファルシーは首を傾げ、ゆっくりと彼へと近付いた。

 顔の前で手を振ったり、覗き込んだりしているが全く反応が無く。聞こえてすらいない。明人の場合、無視している可能性もあった。


 困ったファルシーは、またしてもカクリに目線を送る。彼も面倒臭い事に巻き込まれたくなく、無視を決め込もうと本で顔を隠す。だが、そんなの許す訳もなく、本を無理やり奪い取り、青筋を立てているファルシーはカクリを見下ろした。


 さすがに無視が出来ない事を悟ったカクリは、何度目かになる溜息をつき。小さく首を横に振る。


「こうなったら、私達の声は全く聞こえん」


 その言葉聞くと、ファルシーはゲンナリした表情を浮かべ、肩を落とし。仕方なく待つ事にした。


 ☆


「なるほど。全ての点が繋がったわ」


 明人が黙ってから数分後、口角を上げいきなり口にした。その言葉に、暇を持て余していたファルシーと本を読んでいたカクリが同時に反応し顔を上げる。


「点とは、なんだい?」


 カクリはやっと話が進むと思い、読んでいた本を閉じ質問する。

 質問をされた明人は、先程まで浮かべていた笑みを消し、珍しく素直に説明を始めた。


「前に、神霧音禰の病室であった出来事を覚えてるか? 覚えているな。あの時、俺は神霧に触れようとした時、いきなり知らない記憶が脳内に再生されたんだ。しかも、大量に──」


 明人の話す内容は、いつもとは異なり質問するような話し出しだった。が、結局はカクリの返答を待たずにそのまま話を続けたため、いつもと変わらなくなってしまう。

 ファルシーは「いいの?」と言うように明人を指しながらカクリを見るが、とりあえず最後まで聞こうと、見られている本人は呆れ気味に小さく頷いた。


「記憶容量は一ペタバイド。テレビの高画質録画を十三年分以上と言われている。だからこそ、そう簡単にパンクなんてしねぇ。なら、なんで俺はあの時気を失ったか。それは記憶という言葉にも種類があり、それは研究者の中でも様々な見解があるらしく、その中で──」

「す、少し待ってくれないかい? どんどん話がズレているような気がするのだが……。私達にも分かるように説明してくれぬか」


 明人の説明がどんどん脳の仕組みに移行していき、カクリは思わずストップをかける。

 ファルシーはもう訳が分からなくなり、目を回して地面に倒れ込んでしまっていた。


「アホどもが。これぐらい常識だぞ、頭を使え餓鬼」

「使ったとしても今のは関係がないだろう」


 カクリがムッとなり、眉間に皺を寄せ不貞腐れたように言う。そんな表情など明人に効く訳もなく、淡々と話を続けられた。


「ある──が、まぁ。馬鹿にも分かりやすく言ってやると、神霧に俺の記憶が封印され、俺は触れるだけで脳が処理できないほど大量の記憶が送り込まれた。俺の脳をショートさせないで記憶を取り戻すには、記憶を移動させた張本人が戻す他方法がない。そのためには、魔蛭を説得する必要がある。それか、あのベルゼと呼ばれている悪魔を排除し、魔蛭からの復讐心を無効化し、無理やり記憶を戻させる」


 後半の明人の言葉に、カクリは頭を支え、ファルシーは驚きで目を見開いた。まさか、そんな非道な事を言うと思っていなかった。


「──無理矢理の方が楽しそうだな」

「平和的に解決というのは、頭の中にはないのかい?」

「ない」


 カクリの言葉に即答する明人は、「そうだ。今までの仕返しをさせてもらおうか」と怪しい笑みを浮かべ、ファルシーに目線を送った。

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