「意味はありますよ」
買い物が終わった2人は、会話などをせずそのまま家の中へと入る。
真楓佑はリビングに食材が入った袋を置くと、そのまま部屋へと戻ってしまう。
香澄は何か言おうと口を開いたが、すぐに閉じてしまい、そのまま冷蔵庫に食材などを入れ始めた。
部屋へ戻ると、いつもなら直ぐに机に向かっていた彼女だが、今回は珍しくベットに横になった。天井を見上げ、何か考えている。
「噂。私も耳にしたことはあったけど、現実的にありえないし……。それに、人形──か」
人形という言葉を口にし、真楓佑は体を起こす。そして、そのまま部屋を出て玄関へと向かい、再度外に出た。
香澄は玄関のドアが開く音が聞こえたらしく、廊下に顔を出すが、もうそこには彼女の姿はなかった。
「真楓佑ちゃん……。貴方の気持ちを理解してあげられない私は、親失格ね……」
心配そうに眉を下げドアを見続ける香澄だったが、すぐに俯きながらリビングへと戻って行った。
「私はなんでここにいるんだろう。噂なんて嘘のはずなのに」
真楓佑は今、先程の噂にあった林の前に居た。
そこで林の中に目線を向けながら立ち尽くしている。入るかどうか考えているらしい。
「…………まぁ、どうでもいいか」
そう言うと、真楓佑はまだ陽光が降り注ぐ林の中に入っていった──
小屋の中。明人は珍しくソファーで寝ていなかった。
今は奥の部屋にある記憶保管部屋で、小瓶を並べ替えている。カクリはその様子を後ろで見ていた。
「明人よ、何をしているのだ?」
「並び替え」
「見ればわかる。なぜ並び替えているのかを問いているのだ」
「気分」
「答える気は無いようだな」
淡々と会話を繋げる2人だったが、カクリはなにかに気づいたらしく、ゆっくりとドアの方に目を向けた。
「来たのか?」
「らしいが。明人よ、今回は匣を抜き取る方向はやめておいた方が良いと思うのだが……。 開けるだけで済ませた方が良いと思う」
「知るか。その依頼人がどんな奴なんて、話を聞かねぇ限りわかんねぇだろ。今ここで話していたところで意味はねぇ」
そう言うと、彼は手に持っていた小瓶を棚に戻し保管部屋から出ようとした。だが、カクリの声により足を止める。
「待て明人よ。今は少し落ち着いているようだが、またいつ呪いが進行するかわからん。なるべく話し合いで終わらせる必要性があるだろう」
「そもそも俺達の目的は、俺の記憶を取り戻すことだ。正直、依頼人がどうなろうと俺の知ったことじゃねぇし、俺は俺の好きにやらせてもらう。その方が手っ取り早いしな」
それだけを口にして、明人は今度こそ部屋を出て行ってしまう。その後ろ姿を見て、カクリは溜息をつき、後に続くように部屋を出ていった。
真楓佑は林の中に入り歩き続けていた。
今日は雲ひとつなく、今はもう夕暮れが近づいているらしく、オレンジ色の光が彼女を照らしていた。
木々に遮られ、光芒が降り注ぎ、幻想的な空間が映し出されている。
気持ちの良い風が、真楓佑の長い黒髪を揺らしていた。
「こんな所で何してんだろう私。なんだか、呼ばれた気がしたけど、気の所為だよね」
そう口にしつつも、まだ林の奥へと進んで行く。すると、1つの小屋が姿を現した。
見た目は古く、蜘蛛の巣などが張っている。壁画は剥がれ、周りの大きな木によって隠されているようにも見えるのだが、ドア付近だけは綺麗で、人が使っている形跡を確認できた。
真楓佑は、周りを見回したあと、ゆっくりと小屋へ近づきドアノブに手を添えた。そして、ドアを開ける。
顔を覗かせると、中には明人が小さな椅子に座り、笑みを浮かべながら彼女を出迎える姿があった。
「お待ちしておりました。では、貴方がここへ来た理由をお話していただけますか?」
ドアを開けた彼女を見据え、明人は優しく問いかける。それを、真楓佑は無表情のまま視線を周りに移すだけで、動こうとはしなかった。
「立っているのは疲れるでしょう。さぁ、ソファーへとお座りになってください」
真楓佑に座るように促す明人だが、なぜか座ろうとしないでその場に立ち続けていた。それを不思議に思ったのか、彼は顎に手を当て少し考え始めた。
「どうしたのですか。立っていたいのでしたら止めませんが……」
「貴方はなぜこのようなことをしているの? 意味はあるの?」
いきなりそのように話だし、明人は少し驚きの表情を浮かべたが、すぐに笑みを貼り付け答えた。
「それにはお答えすることはできません。ですが、意味があるのかという質問には答えられますね」
そう言うと、彼は真楓佑と目を合わせ口を再度開いた。
「意味は、ありますよ」
その言葉に彼女は眉を顰める。
「その意味って、自分にとって都合がいいこと?」
「そうですね。否定はしません。なぜそのようなことをお聞きになるのですか?」
「ここの噂を耳にしたから。ここでは、人を人形にするの?」
真楓佑の淡々とした言い方に、明人も微笑みながら返していたが、最後の言葉には少し戸惑いを見せた。
そのような事を聞かれるとは思っていなかったのだろう。
「そのような噂が今は流れているのですね。ですが、それは依頼人次第ですよ」
「否定はしないのね」
「する理由がありませんので」
そのような会話をしたあと、真楓佑はやっとその場から動きだしソファーへと腰を下ろした。それを見た彼は、そのまま依頼内容を聞こうと口を開く。
「では、貴方がここに来た理由を教えて頂けますか?」
「特にない。ただ、呼ばれたような気がしたから」
その一言に、明人は何を思ったのか妖しい笑みを浮かべ、目を細め彼女を見つめた。
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