「邪魔だなぁ」

 小屋の中。

 明人は依頼人である隆也と向き合い、自身のできることや〈匣を開ける〉について説明をした。


「それでは、願いを叶えることは出来ない……と言うことですか?」

「申し訳ありません」


 隆也の言葉に対して、明人は眉を下げ申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「あ、いえ。でも、匣を開けることにより、その人はどのようになるのでしょうか?」

「それは本人次第になるかと思います。私はただ、お手伝いをするだけなので」

「そうなんですか……」


 その言葉を聞き、彼は目線を落とし黙ってしまう。


「さぁ、どうしますか? 貴方は匣、開けてみますか?」


 笑みを崩さず、彼はそう問いかけた。その問いに隆也は、膝に置いていた手で握りこぶしを作り、再度目線を上げ口を開いた──





 次の日の朝、隆也と誠也は一緒に登校していた。


「昨日は本当にごめんな隆也。来週に試してみようぜ!!」

「あ、それなんだけど誠也。俺、昨日試しに行ってみたんだよ」


 隆也のその言葉に、誠也は驚きの表情を浮かべ、それと同時に目を輝かせ彼の両肩を掴む。


「えっ、マジで? どうだったんだ?!」

「それがさ、林の中を歩いてたんだけど、

「あぁ、やっぱり噂だったってことかぁ」


 誠也は隆也の言葉を聞き、肩を落としてしまう。


「期待してたの?」

「少しな。だって、噂が本当かどうか確かめて、もし本当だったらクラスの人達に自慢できるだろ!」


 少し興奮気味にそう話す誠也に対し、隆也は優しげな笑みを向けていた。そして、いつも通り学校に向かう。その際、いつもと同じく、くだらない話をしながら。


 教室に入ると、隆也は自身の机に一直線に向かい、誠也は他の友達に声をかけられ楽しげに話している。

 その様子を、自身の椅子に座り教科書を机の中にしまいながら、隆也は目を細めながら見ていた。


「………邪魔だなぁ」


 隆也の低く重たい言葉は、誰の耳にも届かなかった。





 それから2週間、の日々を送っていた2人だったが、ある日を境に変わってしまっていた。


「…………また、入ってる」

「誠也。どうしたの?」


 一緒に登校し、隆也と誠也は下駄箱で靴を履き替えていると、彼がそう言葉を零す。

 隆也はなんのことか分からず、誠也の方へ顔を向けると、手に紙が握られているのを見つけた。


「これって、ラブレター?」

「んなわけあるか。もう何日も続いてんだよ」


 隆也の持っていた紙には、赤い文字で呪いか何かじゃないかと思うほど、荒い文字が書かれていた。


 内容は──


【ずっと見てるよ】


「気持ちわりぃ……」

「『ずっと見てるよ』……か。確かにこれは……。監視されているってことかな」


 隆也は誠也の持っている紙を覗き見て、顎に手を当てそう呟いた。冷静にその手紙を見ている隆也はすごい異様に見えるが、そのようなことを気にする余裕が誠也にはないようで、手紙を奪い取った。


「気持ち悪いこと言うなよ誠也! つーか、普通に怖いわ!!」


「たくっ」と、誠也は紙を片手で握りつぶし、近くにあったゴミ箱へと入れてしまい、荒々しく教室へと向かってしまった。

 その様子を後ろから見続け、そして静かに歩き出した隆也の口元には、歪な笑みが浮かんでおり、頬も赤く──染まっていた。






 それからも、誠也への嫌がらせはずっと続いており、下駄箱に手紙は当たり前になっていた。そして、今では机の中に写真が入っていたり、時々視線を感じるらしく、急に後ろを振り向いたりしている。


 誠也は日に日にやつれてしまい、いつも周りを気にし始め、必要最低限の外出しかしなくなってしまった。


 人との関わりも恐怖を感じるようになったのか、誠也は教室内では前ほど周りの人と話さず、周りの人も遠巻きに見ていた。

 それでも、今まで沢山遊んできた友達は「大丈夫か?」「夜寝れてねぇの?」「ちゃんと食えてるか?」と、心配するような声をかけていた。


「大丈夫だよ……。ちょっと、目眩がするだけ……」


 誠也は声をかけられたことになのか、体を震わせながら頭を支え、小さくそう答えた。その目の下には隈ができており、夜眠れていないのは明らかだった。

 周りで声をかけていた友達は、誠也の返事に顔を見合せ、肩に手を置いた。


「なぁ。今日は久しぶりに俺の家に遊びに来ないか? 新しいゲームを買ったんだよ。お前、格闘ゲーム好きだったよな。一緒にやらねぇか?」


 友達のその言葉に、誠也は顔を上げ口を開いたが、それは隆也によって遮られてしまった。


「誠也。何してるの? 早く帰ろうよ」


 隆也は優しい笑みを浮かべながら、誠也の横に立ち声をかけた。


「いや、今は俺達が誘って──」

「誠也。ほら、帰ろう。今日の夜ご飯は何にしよっか」


 友達の言葉を無視し、隆也は誠也の腕を掴み立ち上がらせた。そして、鞄を自分のと誠也のを片手で持ち、引っ張るように教室を出て行く。

 その様子を誠也の友達は、困惑の表情を浮かべながら見ていた。


「なぁ、最近の隆也もおかしくねぇか?」


 そんな言葉を交わしていたが、その会話が2人に届くことは無かった。

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