「助かりました」
放課後になり、隆也は誠也へと鞄を持って近づいた。
「誠也」
「おっ! 隆也。それじゃ行こうか!!」
「うん!」
2人で教室を出ようとした時、誠也の名前が教室内から呼ばれた。
「誠也、ちょっと手伝ってくれないか? これ重たくて1人じゃ運びたくねぇ……」
「えっ、いやでも──」
「頼む!!」
誠也の友達は顔の前で手を合わせ、必死にお願いをしている。
眉を下げ、彼は困ったような表情で隆也の方を横目で見ていた。自分から行こうと言ってしまったため、気にしているのだろう。
そんな2人を見て、隆也は寂しそうな笑みを浮かべながら「大丈夫だよ。手伝ってあげて」と手を振った。
「そうか? なら、また時間あった時に行こうぜ」
そのまま誠也は、友達の所へと行ってしまった。残された隆也は貼り付けた笑みを消し、俯きながら学校を出て行く。
「どうしてこうなんだろう……」
そう呟きながら歩いて帰宅していると、なぜか見覚えのない道を歩いてしまっていた。
周りを見ていなかったにしろ、今までずっと同じ道を通っていたはず。間違えるなんてあまりないだろう。
「あ、前見てなかったから曲がり角通り過ぎたかな」
そう完結させ、隆也は戻ろうとした。
今彼の目の前には大きな林があり、そこは、今日本当は誠也と行くはずだった、噂の小屋が存在する林だった。
「………どうせ嘘だろうし。確認だけしてみようかな」
そうぼやき、彼は戸惑いを見せずゆっくり林の中へと足を踏み入れた。
それから数分後、直ぐに噂の小屋らしき物が現れた。
「ここか? なんか古いな……」
小屋は見た限りではかなり古く見える。
壁画は剥がれ、屋根などにはクモの巣が張られている。周りの木は手入れされていないらしく、小屋を覆い隠そうとしているように見える。
「ここって人、住んでんのかな?」
疑いの声を出すが、とりあえず開けてみようと思ったらしく、隆也は警戒しながらドアへと近付く。
「ドア付近は綺麗なんだな……」
人の出入りがある形跡があり、彼はドアノブを握りおそるおそる開いた。すると、中は明るく、小屋の中心にはソファーとテーブル。小さな木製の椅子が置かれていた。
「人、住んでそう……」
ドアを開けてから、中には入らず小屋の中を見回している。物珍しそうに見ていると、奥にあるドアがギギギと音を立てながら開いた。
「依頼人かい?」
そこから現れたのは、小学生くらいの身長に、銀髪。ツリ目気味の美少年、カクリだった。
声も鈴音みたく綺麗で、隆也は直ぐに声を出すことが出来なかった。
「どうしたんだい。中には入らないのかい?」
静かにそう問いかけるカクリは、少し眉間に皺を寄せているため、機嫌はあまり良くないらしい。
隆也はそのようなカクリの様子に気づいたのか、急いで中へと入りドアを閉めた。
「えっと、なんで君がここに?」
「ここが、私の主である人の住処だからだ」
簡単にカクリはそう答えたが、隆也はよく分かっていないらしく首を傾げている。
「そう言わされているの?」
「なぜそうなる。そもそも、私は自分の言いやすいようにしか言葉を口にしない。そのような言い方はやめてほしいものだね」
「すいません……」
最初より少し声が低くなり、明らかに不機嫌なカクリに対し、彼はこれ以上何も口にできなかった。
そこからは沈黙の時間が訪れ、カクリは木製の小さな椅子に座り本を読み始めた。
隆也は何をすればいいのか分からないらしく、入ってきた時と同じ場所から動かない。立ち尽くしてしまっている。
それから数分後、再度奥のドアが開き、今度は藍色の髪で片目を隠し、白いポロシャツにジーンズと、シンプルな服を身にまとった美男子が現れた。名前は
「遅れてしまい申し訳ございません。立っているのも疲れてしまいます。さぁ、ソファーへとお座りください」
優しい微笑みを浮かべながら、明人は隆也をソファーへと促した。その微笑みに肩の力が抜けたらしく、固まって動けなかった彼だったが、今はスムーズにソファーへと移動し腰を下ろした。
明人もいつも通り椅子に座ろうとしたが、今回は先約がいたことに気づき、カクリの腰を掴み、そのまま持ち上げ横に下ろした。それも、表情を一切変えず笑みを浮かべたまま。
カクリは軽々と持ち上げられたことになのか、それとも場所を無理やり移動されたからなのか。
怒りの表情を明人に向け、何かを訴えている。
「さて、では自己紹介しましょうか」
カクリの目線など何も感じていないのか、明人はいつも通り依頼人に笑みを向けながら、自己紹介を始めた。
「私の名前は筺鍵明人。ここの小屋に住まわせていただいております。貴方がここに来た理由を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「来た理由と言われましても……」
隆也は膝に置いていた手で握りこぶしを作り、俯いてしまった。
「ここの小屋についてはご存知で?」
「あ、はい。なんか、箱を開けてくれるとか。箱を開けた人の願いを叶える──とか。そのように聞いていますけど」
自分が聞いていた噂と、女子生徒が話していた内容をあやふやに明人に伝えた。
それを聞いて彼は、顎に手を当て少し考え始める。
「なるほど。今はそのようになっているのですね」
「はい──って、今は?」
「こちらの話です。ですが、大きく変化していないようで助かりました」
「はぁ……?」
明人の言葉に疑問が絶えないのか、隆也は気の抜けたような声を出すしかできなかった。
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