隆也

「2人で」

 学校のグラウンド。数人の男子生徒がワイシャツの袖とズボンの裾をめくり、サッカーをしていた。


隆也たかや!!!」

「任せて誠也せいや!!」


 男子生徒二人がお互いに名前を呼び合い、隆也から誠也へボールが渡る。誠也の足元に吸い込まれるように転がったボールは、力強く蹴られゴールへと向かう。

 ゴールキーパーがボールを止めるため、横へと跳ぶ。だが、ギリギリのところですり抜け、ボールはサッカーゴールへと入った。


「「よっしゃ!!!!」」


 ガッツボーズをして喜ぶ生徒と、肩を落とす生徒がグランドに立っていた。


「隆也さすがだな!! 良いパスだったよ!!」


 袖で額から流れ出ている汗を拭きながら口を開いた男子生徒は、金髪の少し長めの髪に、つり目の青い両目。ワイシャツのボタンを少し開けているため活発そうな印象を与える。名前は、武田誠也。


「ありがとう誠也」


 彼の言葉に答えたのは、短髪の黒髪に青い両目、今は運動中だったためワイシャツのボタンは開けているが、普段は上まで閉めている少し大人しめな男子。名前は武田隆也。


 二人は双子で、今まで一緒に行動する事が多かった。だが、二人の見た目や性格は正反対。

 誠也は明るく活発で、髪も染めており少し不良感がある。逆に隆也は、黒髪で大人しい。冷静に周りを見るタイプだ。


「もうそろで昼休み終わるか」

「そうだね。片付けようか」


 誠也は時計を確認すると、周りに声をかけ片付けを始めた。隆也も同じく片付けを始める。


 誠也は他の友達と楽しく話しながらで、隆也は一人で黙々と片付けている。その際に、楽しそうに話している誠也を横目に、隆也は周りに気づかれないように少し頬を染めていた。





 午後の授業が終わり、二人は教室で帰る準備をしていた。


「おい誠也。これから一緒に本屋行こうぜ!!」

「あ、いいぜ!! ちょうど欲しい本があったんだよ。隆也、今日は本屋寄って帰るから遅くなるわ。かーさんに伝えといてくれ」


 誠也は、鞄に教科書を詰めている隆也に伝えた。

 隆也はすぐさま「わかった」と返答。その言葉を聞き、誠也はそのまま教室を友達と一緒に出ていった。


 手を振りながら彼を見送った隆也は、廊下へと消えた誠也をいまだ見続けている。見送っていた手は止まり、鞄に置かれた。目線も下に向けられ、左右の黒髪で顔を隠してしまう。

 悲し気に俯き、鞄に置かれた手をゆっくりと動かし始め変える準備を終らせた。


「………今日は、俺が誠也と……」


 消え入りそうな呟きは誰にも届かず、そのまま学校を出て家へと真っ直ぐに帰っていった。






 次の日。当たり前のように学校へと隆也と誠也は一緒に向かっていた。楽しく話しながら歩き教室へ。時間通りに授業が始まった。


 先生は黒板に文字を書き、教科書の読み合わせをしている。

 生徒達は必死にノートを書いていたり、欠伸を噛み殺していたりしており、集中している人としていない人で分かれていた。


 誠也も眠そうにうつらうつらとしている。逆に隆也は、ノートにしっかりと黒板の文字を書いていた。


 そのような日々が続いていたがある昼休み、女子生徒が話しているを2人は耳にした。


「ねぇ、知ってる?」

「えっ? なんの話?」

「最近みんなが口にしている噂の話だよ。林の!!」

「あっ。林の奥にある、箱を開けてくれる小屋のことでしょ。箱を開けてもらえると願いが叶うんだよね!」

「そうそっ……? 箱を開けてもらうと願いが叶う? 私が聞いたのはどんなに固い箱でも開けてくれるって話なんだけど……」

「えっ? でも、それだと開けた後どうするの?」

「それは……。でも、箱を開けて願いが叶うのも不思議な話だよね? それに、小屋にたどり着けた人は少ないみたいし……」

「確かに。たどり着けたって話すら少ないし……」


 そんな話をしている女子生徒2人に耳を傾け、誠也と隆也は目を合わせた。


「なぁ、今の噂聞いたことあるな」

「確かに、俺も聞いたことあるよ。詳しくは分からないけど……」


 誠也は楽しそうに笑みを浮かべながら、隆也へと話しかけた。


「今日の放課後、俺達で行ってみねぇか?」

「えっ? 俺達で?」


 誠也の言葉に隆也は目を丸くする。そのあと、少し考える素振りを見せ、小さく頷いた。


「わかった。でも、辿りつけた人も少ないみたいだけど、骨折り損になったりしない?」

「辿り着けなかったらそん時だよ。とりあえず行ってみようぜ」

「そうだね。2で行ってみよう」

「おう!」


 隆也はなぜか、〈2人〉という言葉を強調しながらそう口にした。そのことに対し、誠也は一切気にせず返事をし、休み時間を終わるチャイムが鳴った。


 誠也が席に戻ると、隆也は頬を染め、嬉しそうに小さくガッツポーズをした。


「久しぶりに誠也と2人で……」


 弾むような歓喜の声を零し、笑みを浮かべながら授業の準備を始めた。

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