「取り戻すが良い」
レーツェルは、カクリの力を事細かに説明した。
カクリの力は主に【相手の真実を見る、真実を取り除く】だ。
真実とは嘘、偽りが無いという事。カクリはそれを見ることができ、真実を取り除き、嘘や偽りを作ることが出来る。
例えば、自分以外の人の真実を取り除き、嘘、偽りを作り出すことにより、周りを騙す──などが出来る。
力の使い方は様々あり、このようなことがカクリには出来るのだが、今まで自身の力を制御出来ず使ってこなかった。
レーツェルもカクリの力は危険な物と見なし、使わせていない。
「真実を見ると取り除くか……」
「他にも、相手の精神を操ったりなどもできる。まぁ、力はそれだけでは無いのだが──」
「それだけでは無い?」
レーツェルの言葉に、男性は怪訝そうな表情を浮かべた。
「あぁ。だが、それは今知らなくても問題は無い」
答えたくないのか。レーツェルは言葉を濁しカクリの方に目線を向けた。
「そんなに嫌がるでないカクリよ。この人はもしかしたら、お前さんの大事な相棒になるやもしれんぞ」
「お言葉ですがレーツェル様。それは絶対に有り得ません」
「俺もゴメンだね」
そうお互い口にし、またしても喧嘩が始まりそうな雰囲気になってしまう。それをレーツェルは楽しげに眺めている。
「それでは、そなたにカクリの力を授ける。その力を使い、自身の記憶を取り戻すが良い」
「いいようにまとめるなよ。俺はまだ決めてはいないぞ」
「なら、このまま行く宛もなく彷徨い歩くか?」
そう口にするレーツェルの瞳は鋭く、冷たい。その目線を向けられた男性は思わず肩を震わせてしまい、バツが悪そうにそっぽを向いてしまった。
「無言は肯定。では、早速で悪いがやるぞ」
「私の意思はないのでしょうか」
「今回ばかりは許せカクリ。それに、この男との関わりはお前さんを大きく変えるきっかけとなろう」
「きっかけ、ですか」
レーツェルはその場から移動しようと、森の中へと足を踏み入れる。その隣にカクリが慌てて駆け寄り、未だ納得していないのかブツブツと文句を口にしながら着いていく。
やれやれと言うようにゆっくりと立ち上がり、男性は置いていかれないように静かについて行く。
「これから楽しくなりそうだな」
「レーツェル様。私は全然です」
そんな言葉を静かに交し、3人は森の中へと入っていった。
森の中には光芒が降り注ぎ、鹿やたぬき、クマといった野生動物達が日向ぼっこをしていた。
木の上にはリスや猿が木の実などを仲良く食べている光景もあり、暖かく感じる。
そんな森の中をしばらく歩くと、レーツェルがいきなり立ち止まった。
目の前には、トンネルくらいの大きさがある洞窟が姿を現した。
周りは陽光のおかげで明るいが、何故か中は暗く、奥まで見ることが出来ない。
中からは風が吹いており、ものすごく冷たいため体が震える。
「洞窟?」
「そうだ。ここでカクリの力をお前さんに移す。まぁ、移すと言うより分けると言った方が正しいかもしれん」
「どっちでもいいわ。なんも出てこないだろうな」
男性は洞窟の中を少し覗いたあと、レーツェルに問いかけた。
洞窟の中をまじまじと見てみると、上からは水滴が落ち、足元はでこぼこしており歩きにくそう。水溜まりもあり、正直怪しいため入りたくはない。
奥を見通したくても結構長いのか、奥の方を確認することが出来ない。風も冷たいため、男性は自身の腕をさすっている。
「安心せい。この中に生き物は存在しない。迷い込んでもいないはずだ」
「なぜ?」
「さぁ。何故だろうな」
レーツェルは袖に手を入れると、そこから煙管を取り出した。
「俺はここで待っているとしよう。2人は仲良く中に入り、儀式を行なってくるのだ」
そういうと、洞窟付近にある大きな石に座り足を組む。そして、先程袖から出した茶色の煙管を口にくわえて吹かした。
「あんたは来ないのかよ」
「行く必要はないと思うがね。お前さん2人で事足りる。時間になれば行くとしよう」
レーツェルの言葉に男性は呆れ、カクリは何も言い返さなかった。
「仕方がねぇな……。行くぞ餓鬼」
「…………レーツェル様……何をお考えで……」
カクリは男性の言葉を無視し、レーツェルの方に手を伸ばしている。今にも泣き出しそう顔を浮かべていた。
「カクリよ。頑張るのだぞ」
その言葉に、カクリはもう諦め、男性と洞窟の中に行くしか道は無くなったと悟ったらしく、渋々男性と共に洞窟の中へと足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます