「子供でいておくれ」
レーツェルは頭を掴み持ち上げた。
「神様だと、そんなモノが存在するなら、守って見せろよ。お前の大事なもんをよ!!!」
「なにっ?」
なにかに気づいたのか、レーツェルは慌てて後ろを振り向いた。
そこには、体にナイフが刺さっているカクリの姿があった。
「レ……ツェル……さま」
まだ息はある。だが、ナイフが深々と刺さっているため時間の問題だ。
その姿を確認し、彼はベルゼを落としカクリに近づく。ナイフを抜き取ると、そのまま溶けるように地面に落ち、跡形もなくなった。
カクリの傷口からは、赤黒い血が止めどなく流れ出る。
「くっくっ。そいつの力はもう要らん。そのまま死んでもらえればそれでいい。そいつの力は完璧なる悪だからな」
ベルゼはそう口にし、大声で笑いだす。
「これでそいつは終わりだ。我の邪魔をするからそうなる。そもそも、神様だのなんだのと。ふざけた奴と一緒にいるからそういうことになるのだ。自分の選択を恨むがいい」
ベルゼの言葉にレーツェルは何も返さず、カクリの傷口に手を当てた。すると、傷口が淡く光だし、流れていた血が止まる。
「さてと、やはり小悪魔だろうと悪魔は悪魔か。このまま封印する他ないようだな」
怒りの込められた赤い瞳をベルゼに向ける。その目から放たれているのは他でもなく〈殺気〉のみ。
「封印なんてされるか。では、これで失礼する」
ベルゼはそのまま姿を消そうとしたが、なぜか驚いた表情を浮かべ目を大きく開く。
「な──なんで体が動かん……。き、貴様、何をした!?」
ベルゼの行動と言葉には思い当たる節がないのか、彼ですら少し動揺しているように見える。すると、レーツェルの後ろにいたカクリが体を起こし、ベルゼに近づき始めた。
「カクリ。どうした……」
レーツェルの言葉になんの反応も見せない。
カクリは、今までどんな言葉にも喜んで返事をしていたため、彼はその事にも動揺している。
「『先程、レーツェル様の事を口にしていたように思うが。それは私の勘違いではないだろうな』」
今まで聞いたことの無い程の低くどす黒い声に、ベルゼだけではなく、レーツェルも体をビクつかせた。
「『答えよ。今、レーツェル様の事を悪く言ったか?』」
カクリの表情からは何も感じない。
いや、怒りや憎しみ以外の感情を感じることが出来ない。それほどまでに、無表情だった。
「だ、だからなんだって言うんだ。事実だろう」
「ならば良い。ここで死ね」
右手を前に出し、何かを操作し始めるように、手の指を少しずつ握り始めた。
「なっ……がっ!!! き……貴様……な……にを……!!!」
ベルゼはいきなり苦しみだし、その場に膝をついた。胸あたりを抑えうずくまる。
それでも、カクリは力を抑えることなく使い続けているためか。彼自身の目や口から、血が流れ出てきている。
「そのまま……、ここに来たことを後悔するが良い」
「やっ……やめ……ろ!!!」
ベルゼは耐えられなくなったのか、体を起こし、大きな声で叫び出した。
「やめろぉぉぉぉおおおお!!!」
叫んだ瞬間、カクリの周りにナイフが作り出され、刃先はカクリに向けられている。
それを彼は、気にする事は一切なく、ベルゼから目を離さない。
ナイフがカクリ目掛けて動き出した時────
「まったく。力の制御はまだまだ子供だなカクリよ」
レーツェルがカクリを抱えベルゼから距離置き、ベルゼはその場に崩れ落ち気を失っていた。
「レーツェル様、私は──」
息が絶え絶えだが、それでもレーツェルを心配するような目で見上げている。
そんなカクリの目を、彼は自身の手で抑え、閉ざした。
「カクリの記憶を……、すまないが預からせてもらうぞ。今回の件は何も無かった。何も見なかったし聞いていない。カクリ、お主はまだまだ、子供でいておくれ」
レーツェルはカクリを大事に抱え歩きだした。
最後にベルゼの方に目を向けたが、なぜかどこにも姿はなく、消えていた。
「………あやつの力は影を操ること──か。これからはカクリが狙われてしまうかもしれんな。そうなったら俺1人では手が回らんかもしれん。もし、カクリにとって同等に渡り合える存在が現れてくれれば………」
レーツェルはそう言い残し、森の闇へと姿を消した。
レーツェル達が居た森から離れた裏路地に、波打つように影が現れた。不自然に現れた影からは子供の手のような物が伸び、地面に着く。
ずるっとそ現れたのは、小学校低学年くらいの少年だった。
「おのれ、まさか我があの、まだ力が制御出来ていない子狐に体を縛られるとは……。それに、力まで放出された。くそっ」
そう言葉をこぼしたのは、先程カクリとレーツェルによって返り討ちにあった悪魔、ベルゼだった。だが、先程とはまるで別人の姿になっている。
見た目は子供で、髪も肩くらいまで短くなっており、鋭かった爪や牙は見えなくなってしまった。
「おのれ、許さぬぞ。必ず、後悔させてやる!!」
目を血走らせ、地面を殴った。そこには大きな凹みができ、そのままベルゼは姿を消した。
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