「少し出かける」

「はい」

「おぉ!!! 神よ。ありがとう!!」


 知恵は花霞からゲームを受け取った後、お会計を終わらせそのまま貴音の家へと向かった。


 貴音はレポートが無事終わり、家で待機。

 来てくれた知恵に大感謝していた。


「あとこれ。早く返して」

「そうだね。ちょっと待っててね」


 ついでというように、レシートをお財布から取り出し貴音に渡す。

 そのレシートを受け取り、彼は財布を取りに行くため、自身の部屋へと足早に向かった。


「そんなに嬉しいのかね……」


 そんな貴音を知恵は呆れたような表情で見ていたが、その顔は少し嬉しそう。


 自室に行った貴音を見届け、ポケットからスマホを取り出しいじり始める。


 そんな時、ドアが閉まった音が聞こえたと思ったも束の間。何故か階段から転がってきた貴音の姿がいきなり目に飛び込み、知恵は思わず声を出してしまった。


「何事!?」


 いきなりの事すぎて、知恵は咄嗟に受け止める事もできず、その場に立ち尽くしてしまっていた。


 直ぐにハッとなり、靴を脱ぎ手を差し伸べる。


「いたた……」

「なに!? どうしたの?!」

「急いでたら階段踏み外しちゃったみたい……」


 苦笑いを浮かべる貴音に、知恵は頭を抱えデコピンを食らわせた。


「痛い!!」


 額を抑える貴音を他所に、知恵は肩に入っていた力を抜き、思いっきり息を吐いた。


「えっと、大丈夫??」

「お前がな」

「ひゃい……」


 貴音の心配する声に、怒りの籠った声が被さる。

 これ以上は何も言えないと、冷や汗を流しながら苦笑を浮かべた。


「まったく……。心配させないで」

「え、心配してくれたの?」

「するわけねぇだろ図に乗んな!!!」

「えぇ……」


 そんな会話をした後、知恵は玄関に戻り靴を履き、そのままドアを開け出て行ってしまった。


 取り残された貴音は「あれ、お金……」と呟き、床におしりをつけたままドアの方を見続けている。


「──えへへ。心配、してくれたんだ」


 顔を赤くし、満面の笑みを浮かべながら呟き、幸せそうにその場に転がった。


「俺、やっぱり知恵のこと──」


 頬を染め小さく呟いたが、最後の言葉が口から出る事はなかった。


 ※


 小屋の中にはいつも通り、ソファーで寝ている明人と木製の椅子に座り、本を読んでいるカクリの姿があった。


 今は依頼人が居ないため、それぞれ自由に過ごしている。


「……カクリ」

「? どうしたのだ」


 明人から声をかける事は珍しいため、カクリは直ぐに本から顔を上げた。

 だが、声をかけたにも関わらず、明人は目を瞑り続け、何も言わない。


「………どうした、明人よ」


 名前を呼んでおいて何も話そうとしない彼に、カクリは再度問いかける。すると、やっと明人は体を起こし口を開いた。


「少し出かける」

「それは私もかい?」

「どっちでもいいわ」

「そうか、なら私は待たせてもらう。この本の続きが気になるのでな」

「へいへい」


 明人は奥の部屋から上着を取り、ジーパンのポケットに財布と携帯を入れて、小屋から出て行った。


「──珍しい事もあるものだな」


 出ていったドアを見つめカクリは物珍しそうに呟き、また本を読み始めた。

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