「虚ろな目をしているの」
部活時間は大体二時間から三時間くらい。
練習が終わり、今は部員全員でコートを綺麗にするため掃除をしていた。
「星………」
真珠は練習に集中する事が出来る訳もなく、今も掃除より星が気になり目線を向けている。
掃除している手は止まり、見ていることが出来なくなり悲しげに目を伏せた。
星は無表情のまま、淡々とベンチなどを拭いている。
何度も声をかけようとしたが、真珠は直ぐに口を閉じてしまう。
そうこうしているうちに部活の時間は終わり、星は真珠に何も言わず帰ってしまった。
その後ろ姿を見送っていると、真珠の目の端に、凛が何やら自身のバックをまさぐっている姿が映った。
帰る支度でもしているのだろうと、真珠は怒りの籠った瞳を向ける。
直ぐに離れようとしたが、凛が口の中に何かを入れているのに気づいた。
学校ではお菓子の持ち込みは禁止になっているため、校則違反になる。だが、凛にそのような事が言える訳もなく、見て見ぬふりをし真珠も帰宅した。
※
次の日の朝、真珠はいつも通り更衣室へと入り挨拶をした。
「おはようございます」
「「おはよう〜」」
真珠は更衣室に入り周りを見回す。その時、星が居ないことに気づき部員達に問いかけた。
「あれ。あの、星は?」
「ん? あぁ〜、そういえばまだ来てないかも」
「来てない?」
「うん。私はまだ見てないよ」
その言葉に続き他の部員達も「見てないね」「こっちには来てなくない?」と次々答える。
今までは、星と真珠は一緒に学校に通っていたのだが、最近は別行動が増えていた。
必ず真珠より先に星が更衣室に来ていたので、真珠の方が先に来れたのは珍しい事。
「大丈夫かな……」
最近の星を見ていると、心配でならない。
いてもたってもいられず、鞄から携帯を取りだし星に電話した。
数回、呼び出し音が鳴るが星が出る事はない。
「いつもなら直ぐに出るのに……」
星の連絡先の画面を見ていると、雪凪が抑揚のない声で話しかけた。
「加々谷さん」
「はっ、はい!」
いきなり話しかけられ、真珠は声を裏返してしまった。
「最近、寺島さんの様子がおかしいのは何故かしら。貴方なら分かる?」
雪凪は切れ長の目で真珠に問いかける。
その目に真珠は圧倒されてしまい、すぐに答える事が出来ない。
目を泳がしながら黙っていると、何かを察し、雪凪は溜息をつき肩を落とした。
「…………そう、貴方も分からないのね。ならいいわ。早く練習に行ってちょうだい」
諦めたように目を伏せ、雪凪は更衣室をあとにしてしまう。
その場に残された真珠は何も答えられなかった自分が情けなく思い、下唇を噛み、拳を強く握る。
雪凪の背中を見送りながら、真珠は着替えをしコートへと走った。
※
真珠は星が来るのをずっと待っていたのだが、放課後になってもなぜか来る事はなく、先生からも何も聞かされなかった。
星が心配で仕方がない真珠は、今回初めて仮病を使い部活を休んだ。その足で、星の家まで走る。
向かっている途中で嫌な想像が頭の中に巡り、それを打ち消すように足を前に出し続けた。
全速力で走ったため、すぐに目的の場所に辿り着く事が出来た。
膝に手を付き、息を整えながらインターホンを鳴らすと、白いエプロンをつけた星の母親が不思議そうに首を傾げながらドアを開けた。
「あら? 真珠ちゃんじゃない。星は一緒じゃないの?」
「え、星、今日学校休んだんじゃ……」
「朝は普通に行ったわよ?」
母親の言葉に真珠は困惑を隠せない。
何も言えず、彼女の息遣いだけが聞こえるのみ。
「────まさか」
真珠はボソッと呟き、一つの方向に目を向ける。その目は何か焦っているようにも見え、今すぐにでも走り出しそうな雰囲気だった。
「どうしたの? 真珠ちゃん」
星の母は心配そうに真珠に呼びかけるが、その質問には答えず、真珠は突然走り出した。
「──あの、ちょっと行ってきます!」
「え? ちょっ、真珠ちゃん?!」
星の母の声を無視し、真珠は後ろを振り向かずに走り出す。
向かっている方向は、噂が流れている林がある方角だった。
※
林の前まで走ってきた真珠は、息を整え迷う事なく林の中へと足を踏み入れた。
今は前回ほど暗くないため、スムーズに進む事が出来る。
だが───
「あれ。星どころか……小屋すら見えてこない」
もう二十分以上歩いているはずだが、周りは木々ばかりで何も変わらない。
周りを見回しながらポケットに入れてある携帯を取りだし、画面を確認した。
「携帯は──あれ。繋がってる。なんで?」
スマホを確認すると、電波は弱いが圏外にはなっていなかった。
前回は確実に圏外になっていたはずなのにおかしいと、真珠は再度周りを見回す。
「……………星、どこなの?」
か細い声で呟き、眉を顰める。
すると、カサカサと。葉の重なる音が聞こえ、真珠はそちらへ咄嗟に顔を向けた。
「えっ。なんで……」
「貴方こそ、なぜここへ?」
奥から歩いてきていたのは、なぜか雪凪だった。
「私は──って、星!!?」
星はなぜか雪凪の背中に背負われている。
ピクリとも動かず、真珠の声にも反応はない。
「あの、これは──」
「ここの林に来てみたら、木にもたれかかっている寺島さんが居たの。声をかけているのだけれど返答がないわ。まるで、感情を失ったかのように虚ろな目をしているの」
「………感情………を?」
雪凪の言っている意味が真珠は理解出来ず、その場に立ち尽くしてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます