「お話をお聞かせ願えますか?」
部活中、凛はいつも通り星をターゲットにして憂さ晴らしをしている。
コート内にあるベンチの近くで、星はストレッチをしていたのだが、なぜか凛がわざわざ近付き言い放った。
「ちょっと、そこ邪魔なんだけど」
「す、すいません……」
星はそれに対して、何も言い返さずに素直に避け、違う所でストレッチを再開。
入部してからずっとこんな感じなため、星も気が滅入っており言い返す力すら無い。
目には隈ができており、夜もしっかり寝れていないのが分かる。
部活の時間は進み、今は自由練習の時間。
星は凛の練習風景を眺めながら険しい顔を浮かべている。
眉間には深い皺が刻まれており、彼女の練習風景に対し不審に思っているところがあった。
凛は取り巻きの一人と共にラリーの練習をしていた。
凛がサーブをし、佳恋はそれを綺麗に打ち返す。それをずっと続けている。
普通の練習風景に、何か違和感がありずっと見続けていた。
「…………あ! 私が入部した時から格段にラリーが長く続いているんだ……」
毎日練習をしていればそれは当たり前の事なのだが、凛が真剣に練習をしている所など見た事が無い。
いつも適当に練習しているし、真面目にやろうとしないため、自主練もする訳が無い。
なら、何故こんなにも上達しているのか。
星は壁打ちをしている真珠の所に行き、この疑問を聞いてみた。
「──確かに。どうして真面目に練習をやっていないのにあんなに上達しているの?」
真珠も不思議に思い凛と佳恋を見続けていた。
すると、視線に気付いたのか、凛がいきなり二人の方を向き笑みを浮かべた。
それは勝ち誇ったような表情で、星と真珠は困惑してしまい、どうする事も出来なかった。
※
学校の教室で星と真珠は凛達について話していた。
「絶対おかしいわよ! 顧問がいる時にしか真面目に練習しないのにあんなに上達するなんて」
「そうだけど………。でも、それを聞いたところで何も答えてくれないと思うよ?」
「ん〜……」
二人で頭を悩ませるが、今の状況を打開する策が出てこない。
「どうすればいいんだろう……」
「直接言っても意味無いしね……。それにしても、なんで星ばかり狙うんだろう。私は星と一緒にいる時しか狙われないよ?」
「それは、わかんないけど……」
二人は溜息をつき、星はそのまま項垂れた。
「ほんと、最悪」
「星………」
頭を抱える星を見て、真珠は悲しそうな表情を向け、難しい顔を浮かべる。
その時、何かを思いつき、少し明るい声で星に問いかけた。
「ねぇ、もしかして羽彩先輩、噂の小屋に行ったんじゃない?」
「噂の小屋?」
顔を上げ、星は真珠に顔を向けた。聞き覚えがなく、首を傾げている。
「聞いた事ない? なんか、『どんなに固く閉じられた箱でも開けてくれる』って噂」
「なにそれ……。箱を開けたからって何か変わんの?」
「まぁ、だよね……」
星の苛立ちの声に、真珠はこれ以上何も言えなかった。
彼女の様子を見ればわかる。このままほっといてしまうと、今後どうなるか分からない。
今の段階で、凛のはもう"イタズラ"では済まされない。あれはもう"虐め"になっている。
真珠は星を見ながら、机に置いていた自身の手を、強く握った。
※
部活の終わりに真珠は、一人で林の前に立っていた。
空を見上げると月が顔を覗かせ、周りはもう暗くなり始めている。
不安げに林の中を覗き込むと、深い闇が広がっており入るのに躊躇してしまう。だが、ここまで来て引き返すのも嫌な真珠は、意を決して足を踏み出し、林の中へと入って行った。
外から見た通り中は暗く、月明かりが届いていない。
震える体を誤魔化すように携帯を片手に持ち、灯りをつけ歩いていた。
「やっぱり、こんな暗いと無理か」
携帯を確認すると、画面には"20:26"と表記されている。
「このまま進むと道に迷いそうだし、今日は諦めよう……」
時間的にももう遅いため、真珠は引き返そうと後ろを向く。だが、なぜかその場から動こうとはしない。
忙しなく周りを見回し、何度か片足を踏み出すがそれ以上進む事はなく、また違う所に目を向ける。
汗が一粒流れ落ち、恐怖という感情が瞳に宿っていた。
「……あれ、どっちに行けばいいんだっけ」
周りは緑で覆われており、どこを見ても同じ風景な。目印になる様な物も一切何も無い。
「ど、どうしよう……」
暗い林の中。真珠はとうとうその場にしゃがみこんでしまった。
とりあえず親に連絡しようと画面が暗くなってしまった携帯を開こうとするが──
「うそ。さっきまでちゃんと繋がってたのに!」
携帯には"圏外"と表示されていた。
これでは、誰とも連絡が取れない。
──────バサバサバサ
「ひっ!?」
静かな空間に鳥の羽ばたく音が響く。
それだけではなく、風が吹く度枝同士が重なる音や、虫の声などが耳に入り、それがまた不安感を煽る。
「どうしよう、怖い……」
体を震わせ、真珠がその場で縮こまっていると前の方から足音が聞こえた。
真珠は足音の方にゆっくりと顔を向けると、成人男性が彼女に手を差し伸べ立っている姿を見つける。
「こんな所に居ては風邪を引きますよ。とりあえず、私の小屋へどうぞ」
「あ……あなた……は……」
周りが暗く、逆光になってしまっているため男性がどのような表情をしているのか分からない。だが、声はすごく優しく心地よい。
真珠は戸惑いながらもその手を取り、立ち上がった。
「では、行きましょう。気をつけて付いてきてください」
男性は真珠が立ち上がった事を確認すると、先導して歩き出した。
置いていかれないように彼女は、怪訝そうな瞳を向けながら歩き出した。
男性に付いて行く事数分後、古い小屋が見えてきた。
「小屋だ……」
「さぁ、こちらへ」
男性は当たり前のように小屋のドアを開け、真珠を中へと促す。
「え、ここ……」
「貴方の悩み、閉じ込めてしまっている想い。私でよければ聞きますよ」
その言葉で、真珠は目を見開いた。
「うそ……」
その場に立ち止まっていると男性、明人は「どうぞ」と再度声をかけた。
真珠は促されるまま、小屋の中へと入る。
小屋の中はシンプルで、真ん中にテーブルとソファー、向かいに木製の椅子。
壁側には本棚が並べられており、奥の方にはドアがあり部屋はここだけでは無い事が分かる。
「では、こちらの方にお座り下さい」
言われるがまま、真珠は鞄を隣に置きソファーに腰を下ろす。
明人も向かいに置いてある椅子に座り、自己紹介を始めた。
「自己紹介をお先に失礼しますね。私は
「あの、私は──」
「貴方は加々谷真珠さん。ですよね?」
真珠の言葉を遮り彼は言った。
その目は何もかもわかっているようで、黒い瞳が真珠の瞳を見通しているように感じる。
「まさか、貴方が来るとは思っていませんでしたが………。さて、お話をお聞かせ願えますか?」
明人の優しく美しい微笑みに魅了されながら、彼女は今までの出来事を話し始めた。
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