第3話 失敗しても良いからやってみよう

「というか、そんな問題なら経済の専門家とか政治家にお任せした方が良いんじゃないか?」

 何で俺みたいな経済の素人が呼ばれたのか意味が分からない。

「………それが、その専門家が失敗しているのです…」

 はい?

「日本の財務担当者にシミュレートしていただいたのですが、だいたいどこかでつまづいてクリアーできなかったのです」サンザさんがためいきをつく。

「なので、これは根本的な所、と思ったのです」ウイルドさんが言う。

 全員が全員セオリー通りの方法を試すがどれも失敗した場合、そのやり方が間違っている可能性がある。だが、専門家たちはその意見を聞かず、同じような失敗を繰り返したらしい。

「そのため経済に詳しくない全くの素人の方の方が原因を理解できるのではないかとお思いして、お願いしようと思ったのです」

 ちょっとまて、専門家でもダメなもんを素人が解決できるわけがねぇべ?そんなバイト感覚で片手間にやって救えるもんなら日本だって30年も不景気とか言われるはずがないじゃんねー。

「まあ、

 そんなに!

「たまには趣向を変えたプレイもみたいなーと言うのが実感です」

 気晴らしで呼ばれたのかよ。


 素人っぽいゲーム動画って上手な人が真似しようとするとかえって難しいのはわかる。だからって素人に任せるか、ふつう?


「まあ、失敗しても参加賞のポケットティッシュを贈呈しますので、気楽に


 重いよ。


 そんな重要な仕事をくじ引き感覚で任せないでほしい。

そういうとウイルドはしゅんとした顔で

「そうですよね、前回も『こんな無理ゲーやってられるか!』言われて元の世界にお戻りになられたのです」


 無理ゲー。


 その言葉に俺は強く反応した。

 無理ゲーとは『クリアするのが無理なほど難易度の高いゲーム』の略称である。そういったゲームほど『何故無理なのか?』『本当に解決策は無いのか?』と考えるのが好きだったりする。

 昔『超クソゲ―』という本で取上げられていたBRAINDE●D13という即死ゲームがあった。

 ノーヒントで決まったボタン入力をしないと2秒後には死ぬという不条理ゲームだったが、正解をメモして少しずつ進める事で13日間かけてクリアーした。

 ゲーム機のボタンは8つだったから、正解に当たる確率は1/8。それを250回ほど何度も死んで探しだしたのだが、その程度には根気はある。

 まあ、場合によっては結果が『結局これは無理だと思う』の場合もあるがそれでも良い。ゲームは過程が大事なのだ。

 そして、その過程は誰にも解けないほど難しい方が燃えるという厄介な嗜好をしていた。なので

「まあ、とりあえず。話だけでも聞こうか」

 俺は一度離れた席に座りなおした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「で、俺には何か特別な力が与えられるんだろうか?」

 異世界に召還されるなら、何らかの特別な力くらいあって良いだろう。

 現代社会だって有能な人物を引き抜いたら給料をアップするとか高い役職につけて権限をあげるものである。

「この世界で与えられる能力は2つです」

 ウイルドが人差し指と親指を立てる。

「一つ目はやり直しの力。あなたはどんなに失敗しても10回だけ最初からやり直す事が可能です」

 リセットボタンか。それはありがたい。

 先ほど言った100回も同じ失敗を見せられたら、というのもこの能力によるものだろう。だったら、安心して失敗できる。

「そしてもう一つは、やり直す度に『1つだけ特別な力を取得しなおす事ができる力』です」

 なんだいそれは?

「最初に戻った時に、この世界のルールに干渉して、一つだけ特別な力を貰う事が出来ます」

「たとえば『24時間働いても平気な体』とか『全く睡眠を必要としない体』を要求された方もいらっしゃいましたし『インターネットを普及させる力』とか『発電方法がソーラーエネルギーだけの世界にする力』なんてものを要求した方もいらっしゃいました」

 社畜と金の亡者かな?その専門家って本当に経済の専門家だったのだろうか?だがまあ凄い能力だ

「やり直せる上に、そんな特典まで付くのか」

 太っ腹だな。……………………と思うかもしれないが、そうではないのだろう。

 無理ゲーは難易度の高さに比例して変に気前の良い時がある。

 そういう時は大体『それだけやり直しても達成できない程難しい』パターンである。死んで正答を覚える、死におぼえをしないとクリアー出来ないほど難しいという事なのだろう。

「どうですか?やっていただけますか?」

 サンガが問う。

 うん。まあちょっと面白そうだし、失敗してもペナルティがないならやってみようか。ただ、一つだけ聞きたい事がある。

「もし目標を達成できたら、何か報酬でもあるのかな?」

「元の世界に戻った際、一つ好きな能力を授けましょう」

「え?俺、死んだんじゃないの?」

「あれは召還の様式美、パフォーマンスの一種です」

 聞けば、あの暴走トラックは異世界に飛ぶための道具なのだという。

「昔は落雷とか、神隠しで有名なスポットにいくとか、テレビ画面に吸い込まれるというのがメジャーでしたが、近頃ではトラックに挽かれるのがトレンドだと聞きましたので流行を取り入れました」

 取り入れなくていいよ!そんな物騒な方法!あと挽くじゃなくて轢くだよ。ミンチみたいにしなくていいから。

「『ミンチよりひでえや』という言葉が人間界では流行していると聞きましたので」

 ちょっとまて!大丈夫なのか、俺の体。

 というか流行しているならなんでも取り入れれば良いってもんじゃねえべ?

 おまけにその流行10年単位で古いし。

 ……まあ、シミュレートとか言ってるしそこまで言うなら気軽にやってやろうじゃねぇか。

 かくして俺は借金返済のための方法を考えることにしたのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「では、最初の能力を、お決めください」

 つややかな黒髪をなびかせてウイルドが言う。


 良く分からない世界での最初の挑戦だ。10兆とか言う冗談みたいな金額を借金を返済するために必要な力。一体、何を選べば良いだろうか?

 俺はしばらく考えて…『あ、難しく考える必要ないじゃん』とひらめいた。

 もしかしたら、これで問題解決するかもしれない位シンプルで直接的な能力だ。

「お決まりになられましたか?」

 俺の表情を見て、サンガが言う。

 おお、会心の能力を思いついたぞ。

 この廃墟のような建物を立派な王宮に変える事が出来る位の冴えた能力だ。

 俺は自信満々で、告げた。

「そうだな…、では最初はこの能力にしようと思う」 

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