120話 各員の奮戦に期待する
魔王城、離宮。
「魔法団、
近衛武官長モリ・サキが兵を叱咤する声が聞こえる。
また反乱者の襲撃のようだ。
「ああ、なんと恐ろしい。また賊どもが押し寄せているのですね」
「ばあや、大丈夫だ。敵はこうやって私たちを疲れさせて降参させる作戦だぞ。それは攻めあぐねている証拠なんだ」
マリーはわざと大きな声で侍従長を慰める。
それはさり気なく、指揮官の邪魔にならぬように周囲を励ます心づかいだ。
「この離宮は決して破られないぞ。守りも堅くて物資も十分ある。援軍と魔道エネルギーの復旧を落ち着いて待つんだ」
マリーの声を聞き、不安げな女官たちも表情をやわらげたようだ。
本当は、このままではマズい。
反乱軍によりマリーは法的に廃位され、承認しない者と認める者が争い始める。
間違いなく軍も分裂するだろう。
そうなれば、内乱の再開だ。
外敵も侵入し、国土は再び荒れ果てる。
(せっかく皆で頑張ってきたのに! ここまで復興したのに!)
8年間の時間、多くの領民の努力が無駄になる。
それどころかまた、多くの命が失われる。
そう考えただけでマリーはワッと叫んで泣いてしまいたい衝動に駆きたてられた。
だが、身近な侍従長や女官とはいえ臣民の前でそれはできない。
魔王領の象徴たる
将来に悲観して泣き崩れるなど論外である。
「あれはなんだ!? 空を見ろ!」
「うろたえるな! 接近してきたら魔法で迎撃する!」
なにやら外がひときわ騒がしくなり、窓から様子を見た女官たちが「あれは鳥?」「魔道兵器よ」などとざわついている。
「あまり窓に集まるな、狙撃の可能性は低いが流れ弾はありえるぞ」
この離宮の窓は狙撃などがされぬよう角度がつけてあったり、優美なミスリルで柵が備えてある。
だが、戦闘中に窓辺に集まるのは危険が伴う。
マリーは女官たちに声をかけながらチラリと窓の外を見た。
そして、信じられないモノを空に見る。
鳥のような飛行体から次々に飛び降りる兵士たち……いや、それはいい。
真っ先に飛び降りた人物、それは遠くてもマリーにはハッキリと見て取れた。
(――ホモくんだ、ホントに私を助けにきてくれたんだ!)
その瞬間、マリーの口から「うぐうっ」と嗚咽がもれ、涙がポロポロとこぼれて止まらなくなった。
「マルローネ様! いかがなされたのですか? まさか、どこかお怪我を!?」
侍従長が駆け寄ってきたが、マリーは首を横に振るだけが精一杯だった。
◆
「まだだっ、高い位置で
降下とは落下速度をコントロールする魔法、ないしは魔道具だ。
ステュムパリデスから飛び降りた俺たちは次々に中庭に着地する。
やや目測を誤り屋根に乗ってしまった者もいるが、おおむね問題はない。
「よし、手はず通りにいくぞ、エステバンはレッサーデーモンを率いて公社を奪還。俺たちは時計台を占拠する。リンとオグマは上空からできる限りの援護を頼む、可能ならローガイン軍の侵入路を確保してくれ」
作戦の目標は魔王様の救出に加えていくつかある。
エステバンは公社に向かい、システムの復旧を試みる。
成功すれば多数の味方が魔王城に転移可能になるだろう。
失敗したとしても多数のレッサーデーモンが暴れまわれば陽動としては十分だ。
俺たちは時計台を占拠する。
時計台自体に意味はないが、狭く、窓がなく、入り口が1つしかない時計台は少数で守りやすい施設だ。
ここを占拠して敵を引きつけると共に、俺が単独で時計台頂上から離宮方面へダイブする。
降下の魔道具をうまく使用すれば、一気に離宮近くまでショートカットできるだろう。
離宮までたどり着ければステュムパリデスを着陸させて離脱ができるかもしれないし、それが無理でも単純に近衛や魔法団と協力して護衛として働くことは可能だ。
リン、オグマ、シェイラは上空からの援護、および敵の動きの監視である。
特にシェイラは他のステュムパリデスの護衛を担う。
上手くローガイン軍と連携できれば防壁を打ち破って反乱軍を鎮圧できるだろう。
どれも難度は高いが、どれか1つ成功すれば魔王様の救出に繋がる。
個人的な見解で勝算は7割方といったところだ。
「上空から見た範囲内では反乱軍は数も少なく、その大半が防壁でローガイン軍と交戦中だ。残りは城内全体をカバーするほど多くはない」
自分でも笑ってしまうような詭弁だ。
数が少なかろうが、わずか30人の俺たちからすれば対するのは比べようもない大軍である。
だが、上空からの指示を聞き、城内で囲まれないように動きまわることは可能だろう。
武運拙くすべて失敗したとしても、城内で騒ぎを起こせばローガイン軍への援護にはなる。
「各員の奮戦に期待する。作戦を開始せよ」
俺の号令を合図に、全員が動き始めた。
こうして魔王様救出作戦は次の段階へ移行したのだ。
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