118話 チーム松ぼっくり出撃だぞ

【過去作のキャラクターがでますが、そちらを読まなくても特に問題ありません】



 そして、急遽ダンジョン公社の仮本部となった避難所。


 そこの一角で俺たちはシェイラたち36号ダンジョンのメンバーと対面する。

 現在、通信機能はほとんど使えなくなっているが、この仮本部を経由すれば各ダンジョンと連絡が取れたのは助かった。


「エステバン・アキヒロ・タジマです。マスターホモグラフトとお会いできて光栄です。黒い死神、双剣ホモグラフト将軍の雷名は以前より耳にしていました」

「高名なタジマさんにそう言われては言葉もありません。常々お会いしたいと願っておりました。ホモグラフトです」


 タジマ氏は「よろしく」とスマートに手を差し伸べてきた。

 俺も「よろしくお願いします」と軽い礼とともに握手をする。

 ゴツゴツとした武芸者の手だ。


 ロマンスグレーというのだろうか、白髪混じりの髪とクチヒゲ。

 俳優かと見まごうような二枚目だ。

 若い頃は相当な美男子だったのかもしれない。


(それにしても凄まじく鍛え上げた体だな)


 紳士的な雰囲気と甘いマスクに誤魔化されそうだが、服の上からも分かるくらい全身の筋肉が盛り上がっている。

 間違いなく強い。


 隣のシェイラが「でへへ、私のだぞ」と喜んでいるが、夫婦仲は円満のようだ。


「今回はお世話になります、タジマさん。空挺について我らは素人、厳しくご指導ください」

「武勇で鳴るマスターホモグラフトに指導などと。此度の作戦、我らもマスターホモグラフトの指揮下で参加します。なんでもお尋ねください。あ、それから私のことはエステバンとお呼びください。皆からもそう呼ばれていますので」


 このエステバンという男はなんというか……すごく常識がある人っぽい。

 うちは個性的なのばっかりだからすごく安心する。


「それならば私はエドとお呼びください」

「はは、ならば敬語もなしで爾汝じじょの交わり(遠慮のないつき合い)を気取りますか。早速だがエド、そちらの美しいご婦人方をご紹介いただけるかな?」


 このエステバン、俺がスタッフらを紹介すると、やたらと手の甲にキスしたり「美しい」とか「かわいらしい」とか「愛らしい」などと連発してるが大丈夫なのか。

 リリーはこの手の社交辞令にはなれているだろうが、タックもアンもまんざらでもなさそうで複雑な気分になる。


 訂正しよう。

 コイツもなんかおかしい。


「こらーっ! ヨソで浮気しちゃだめでしょ!」

「む、失礼な。浮気なんかしてないだろう?」


 俺が複雑な気分で眺めていると、エステバンのポケットから何かが飛び出してきた。

 人形のようなそれは小人リリパットの少女だ。

 なかなか見ない種族である。


「やあ、ボクはレーレ。空挺作戦では僕たちがナビゲートするよ」


 見るからに人形じみたリリパットを見て、アンが「かわいいですう」と甲高い声を発した。

 レーレは慣れた様子で「よく言われるよっ」とポーズを決めている。


「空挺に? リリパットが?」

「そうだ。空挺にはステュムパリデスという大きな鳥型モンスターを用いるのだが、彼女らはその鳥のパイロット――御者か? とにかくコントロールするわけだ」


 俺の疑問にエステバンが応える。

 モンスターをどうやって誘導するのかと疑問だったが、リリパットたちが操縦するそうだ。


「空挺を単純に説明すればステュムパリデスで降下ポイントまで移動し、上空から落下するだけだ。落下速度を制御する魔法か魔道具が必要になるだろう」

「ステュムパリデスはこちらでも召喚できるが、リリパットはどのくらいの数がいるんだ?」


 エステバンとレーレは「うーん」となにやら考え込み「26か」「30だね」と近い数字を出していた。

 26〜30人といったところか。


「俺、ゴルン、サンドラにリン、それとリリー三人衆か。ウチは7人だな」

「ならばこちらは俺とシェイラ。残りはレッサーデーモンに任せよう」


 ステュムパリデスのサイズ的に2人乗りは厳しいらしく、乗り込む人数もこれ以上は増員できないだろう。


「問題は魔王城の防空態勢だな。さすがに飛行型の亜人やモンスターなどが侵入できないよう魔道兵器やバリスタなどは用意されているだろう。それに降下ポイントに敵がいたらマズイぞ、包囲されている離宮周辺は無理だ」


 見取図を見てエステバンが指摘するように、モンスターや飛行型の亜人による侵入対策はある。

 だが、それは地上からの侵入と比べればはるかに薄い防備だ。


「リンと……オグマだったな。魔道兵器を渡す。作戦までに慣熟しろ」


 俺が用意するのはリンに組み立て式の超射程魔道砲とオグマにダブルバレルハープーンだ。


 魔道砲は込めた魔力を増幅し射出する杖型の触媒である。

 魔力異常があるリンが打ちだせばどれほどの威力を発揮するのか想像もできない。

 組み立てると長さが騎兵槍くらいあり、徒歩ではまともに使えないがステュムパリデスに乗って運用すれば問題ないだろう。


 ダブルバレルハープーンは短槍ほどもあるもりを魔道具の機能で撃ち出す連装砲だ。

 狙撃のスキルがあるオグマならば使いこなせるだろう。

 こちらも大人が一抱えするようなサイズで実戦向きではないが、ステュムパリデスから狙撃すれば問題ない。


 双方ともメンテナンスは定期的に兵器局の女職人さんがやってくれていたから微調整のみで大丈夫だろう。

 こいつらで上空から叩き、防空施設を破壊する。


「ひええ、そんなのドコに売ってるのー?」

「兵器局の試作品だよ。軍時代に作戦で使用して、そのまま俺に褒賞品として下賜されたものだ。両方とも取り回しが悪くて死蔵してしまったが量産されてないレアものだぞ」


 リリパットのレーレは人懐っこい性格らしく、俺に色々と尋ねてきた。

 見た目は表情豊かでかわいらしい金髪の少女、緑のベレー帽とワンピースがよく似合っている。


「あはっ、なになにじっと見つめちゃってさ。ボクの魅力にメロメロになったのかな?」

「ああ、すまないな。リリパットを見るのは初めてなんだ。よろしく頼むよ」


 俺が指を出すとレーレが両手で挟むように握手(?)をした。

 フィギュアなどの趣味はないが、なんとなく楽しさが理解できた気がする。


「ふうむ、ハープーン砲とは大筒か? 使ってみねば分からんな」

「オイラも触媒は威力が出すぎるから使わないんでやんす。そんなデカいのは不安でやんすよ」


 オグマとリンは実物を見ていないので不安のようだ。

 いざとなれば俺かゴルンが降下して防空施設を破壊することも考えねばなるまい。


「反乱軍にも偵察用にハーピーはいるだろうが、これはローガイン軍の方で陽動してもらい引きつける。少数ならば俺が魔法で仕留めよう」

「ああ、それならシェイラの弓がいい。妻は名手でね」


 エステバンはずいぶんとシェイラの弓を信頼しているようだ。

 本人も「まかせとけ!」と胸を張っているが、あまりボリュームはない。


「あのー、俺はどうすればいいっすかね?」

「ローガンだったな。サンドラ、ドアーティと共に降下部隊だ。人間の冒険者が魔王城離宮を攻めるなど前代未聞の壮挙だ。喜ぶがいい」


 これは間違いなく本当だ。

 かなり昔は人間が魔王城を攻めたこともあるが、陥落は1度たりともない。


 この事実を告げると、サンドラは「面白いじゃないか」と不敵に、ドアーティは「えへへ、もう笑うしかねえ」と自然体で笑う。

 ローガンなどは感極まり男泣きにむせび泣いている。


 これだけの作戦を前に怯まぬとは肝の座った奴らだ。

 歴戦の冒険者とはこうしたものなのだろうか。


「エド、アンタの背中はアタイが守る。死んでも食らいついていくよ」

「いや、この戦いは必ず勝つ。サンドラが死なねばならぬ事態にはならないさ」


 サンドラと俺のやりとりを見てレーレが「ひええ、熱っちっちだよお」とからかってくるが、本当に止めてほしい。

 リリーの方から無言の冷気が放出されているのを感じる。


「ごほん、それはさておき作戦まで空挺の訓練を行う。訓練でできぬことは実戦では間違いなくできない。今から36号ダンジョンに向かうぞ!」


 俺が檄を飛ばすと、皆は「おー」「はい」「了解です」などとバラバラに応えてくれた。

 なんとも締まらないが急増チームでは仕方がないだろう。


「よーし、ひさびさっ」

「チーム松ぼっくり(※注)出撃だぞ!」


 そんな中、レーレとシェイラが元気にジャンプしていた。




【※注】

チーム松ぼっくりとは、過去作『好色冒険エステバン』の主人公チーム。

転生者エステバン、知略のシェイラ、ムードメーカーのレーレで世界を股にかける大冒険をしていた。

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