116話 コイツらすごいうるさい
社長と細々した打ち合わせをした俺は、サンドラの部屋に戻ることにした。
部屋に戻ると、開いたドアを警戒したのか、サンドラはベッドの上で身構えるような体勢をとる。
すでに意識は戻っていたようだ。
「すまん、驚かせたな」
「あっ、え、エドッ? ……あの、ここは?」
俺だと気づいたサンドラは慌てて毛布で体を隠すように見を縮めた。
毛布はエルフ社長が用意してくれたのだろうか。
「すまん、鎧と服は治療した時に裂いてしまった、弁償しよう。とりあえずはこれで我慢してくれ」
俺は身につけていたマントを脱ぎ、サンドラにかけた。
転移ポイントまでは他の職員もいるし、さすがに半裸で帰すわけにはいかない。
「あ、ありがと」
「そこで、先ほどの質問の答えだが……ここはとある施設だ。詳しく言うとややこしいが、治療のために転移したんだ。痛むか?」
サンドラは「あ、傷」と肩口を確認するが、白い肌が眩しい。
これは目に毒だ。
「すごい、かなり深く斬られて……もうダメだと思ったのに」
「ああ、腕のいい医者がいたのさ。俺も世話になってる人でな」
いまいち会話が続かないというか、なんというか。
前回もそこまで覚えていないのだが、こんなにぎこちない感じだっただろうか。
「今から元のダンジョンに戻ろう。勝手に連れてきて本当に悪いとは思うが、ここは秘密にしてほしいんだ。身勝手な話だが誓約の魔道具を用意したい。頼めるだろうか」
誓約の魔道具とは、その名の通り約束を履行するため使用者の精神に働きかけ、行動を制限するものだ。
今回のように『秘密を漏らさない』と約束すると、設定した単語を口にできなくなったり、書き出したりできなくなる。
「もちろんさ。アタイはアンタの不利になることなんてしないよ。助けてもらった借りがあるからさ……それに、今回も」
「いや、そんなのはもう無いさ。ありがとう、助かるよ」
俺が「立てるか?」と手を差し出すと、サンドラは弱々しく立ち上がった。
しかし、すぐにふらつき俺にもたれかかるような体勢となる。
俺が腰を支えたために妙に密着した体勢となってしまった。
互いに見つめ合うような至近距離だ。
「エド……アタイはアンタに会いたかった。でも、アンタは忘れていただろ?」
「すまん。再会するまでは、な」
サンドラは「いいよ、思い出してくれたんだろ」とささやき、俺の背に手を回した。
密室で抱き合うような男女、意味深なベッド、これはよくない気がする。
とても。
「エド、アタイはあの時に言ったろ『なんでもする』って」
「そうでしたかね、はい」
なぜか敬語になる俺。
バサリと音をたててサンドラの肩からマントがずりおちた。
(跳ね除けなくては――しかし、これはなんというか、柔らかいやつだ)
ここに、抗い難い誘惑がある。
体が金縛りにあったように動かない。
(まさか
俺はつい、やましさから周囲を確認するとドアの隙間から覗く何かと目が合った。
「あ」
何かが声をあげ「見つかったっす」「近づきすぎでやんす」となにやら揉める声と共にドアが開いた。
片方は聞き慣れた声だ。
「たはは、邪魔して悪いっすね! 気にせずちゅっちゅっしてほしいっす!」
「いしし、よかったでやんすねえ」
タックと前歯の欠けた少女(?)がニヤニヤしながら姿を現した。
たしか彼女はサンドラのパーティーだったはずだ。
「アンちゃんから怪しい話を聞いて偵察に来たっす! そうしたらイチャついてたっす!」
「よかったらオイラも交ぜてほしいでやんす。貴族さまのお妾なんて楽そうでうらやまでやんす」
すごい。
コイツらすごいうるさい。
あと、いつの間に友達になったんだ……と言うより部外者を入れちゃだめだろ。
「リン、アンタいいとこで邪魔すんじゃないよ」
「すまないでやんす。ちょっとあんあんしてるの覗くだけのつもりだったんでやんす」
呆然としてる俺の横でサンドラが頬を膨らませて拗ねている。
人間の国はこの辺がおおらかなのであろうか。
「うしし、どうせ報告するんだから最後までしたほうがいいっすよ!」
「バカな! よろめいたとこを支えただけだろう!? なにもやましいことないぞ! 頼むから変な報告しないでくれよ!」
タックが不穏なことを口にするがそれだけは絶対に阻止せねばならない。
できなければ俺は死ぬ。
「ま、誠意と態度次第で考えてあげるっすよ!」
「ほんとに頼むよ、まだ何もしてないんだよ」
タックは「あれには傷ついたっす!」とニヤニヤと笑う。
「あれっす! 『なんだとっ! ダンジョンのシステムエラーか! この役立たず! ちんちくりんのドワーフ体形!』とかパワハラっすよね!?」
「それは本当に悪かった。でも、そんなヒドいこと言ったかな……?」
タックは「アタシよりサンドラさんが大切なんすね、よよよ」とわざとらしく嘘泣きをする。
サンドラはちょっと嬉しそうだが、俺はそれどころではない。
「よかったでやんすね! 心配してもらえてたでやんす」
「う、うん。嬉しいよ」
こっちはこっちで話が出来上がっている。
キツめの美人が頬を赤らめて照れている姿にはグッとくるものはあるが、わりと本気で人生のピンチだ。
密室で若い女性に囲まれているのに楽しくない。
もっと優しくされたい。
「とりあえず、ここは部外者いたらマズイから。ダンジョンに戻ろうか?」
一同をうながすと、サンドラが「あぁっ」とはかなげによろめき、俺にもたれかかってきた。
さすがに2度目は効かんぞ。
「いやいや、ほんとに部外者がいたらまずいから」
「もう、つれないねえ。いいさ、また2人きりのときに、ね」
サンドラがそっと俺の耳に吐息をかける。
ダメだ。
早くサンドラに誓約の魔道具を使用しないと過ちが起きる。
「なんなら4人でしてもいいでやんすよ。タックさんもお妾さんなんでやんすよね?」
「それはちがうっす! アタシは勢いだけじゃなくて、もっとこう……ロマンチックに口説かれたいっす! ベタに夜景の見えるレストランとかっす! そんでシャンペンの中に指輪が――」
こちらはこちらで盛り上がっているが、話題が不穏だ。
俺は心を鬼にして柔らかいものへの未練を断ち切った。
早くリリーの顔を見ないと肉欲に屈してしまうだろう。
この後、3人にからかわれたり、サンドラやリン(名前おぼえた)にくっつかれたりしながらなんとか転移で戻ることに成功した。
屈託のないリンは幼く見えるが、意外なことに胸の発育はわりと立派だ。
すごく柔らかい。
サンドラと甲乙つけがたい。
転移ポイントまで公社職員に冷ややかな視線を向けられたが、そりゃ婚約発表しといて若い娘さんをはべらせていたら嫌がられると思う。
間違いなく公序良俗違反である。
本当にもうしわけない。
そして、72号ダンジョンに戻ると、椅子に座ったリリーの前で3人の男性――サンドラのパーティーが
なんなんだこの状況は。
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