110話 完全に狂ってやがる
赤魔法使いを後方にVの字隊形、前の2人は慣れた様子で警戒している。
ノッポのクズが57レベル、片割れの髭面が51レベルだ。
双方ともに剣を装備し、頑丈そうな籠手や小盾で身を固めている。
当然、待ち構える俺たちにも気がついているだろう。
不意打ちは通じそうもない。
「はっ、アタリだ! やはり出てくると思ったぞ。久しいな、ホモグラフト」
赤魔法使いが何やら話しかけてきたが残念ながらコスプレしてダンジョンに潜る阿呆と友達になった記憶はない。
(――今だ!)
赤魔法使いがこちらに話しかけてきた瞬間、前衛の2人の気配が弛緩した。
その機をのがさずゴルンの手斧が飛ぶ。
俺はそれに乗じ、身を低くして髭面の方に斬りかかる。
しかし、
ゴルンの斧はノッポのクズに防がれたようだ。
防壁は文字通り魔力の壁を作る魔法だ。
双方ともに手が出しづらくなる厄介さがある。
俺はバックステップで距離をとり、様子を見ることにした。
ここは仕切り直しだ。
「いきなり斬りかかるとは相変わらず危ないヤツだな。俺じゃなきゃ殺られてたとこだ」
「……話したいなら要件を言え」
ここは話を合わせて防壁の効果が切れるのを待つべきだと判断した。
無論、隙があれば攻撃できる心構えは崩していない。
「オイオイ、薄情なやつだな。忘れたのか? 仕方がないな」
赤魔法使いは馴れ馴れしい態度のまま、意外なほどアッサリと仮面を外した。
クセのある金髪、妙にデカい顔、割れたアゴ……見ようによっては愛嬌のある顔つき。
その顔は俺にとっても見覚えのあるものだった。
「……グロスか?」
「そうだ、久しぶりだなホモグラフト」
グロス、それは俺の元同僚だ――ライバルだったと言ってもいい関係だった。
入隊は俺のほうが1年早かったが、同い年で同じ部隊。
互いに出世し、所属は別となったがそれでも友人だった。
だが、戦後にグロスは義理チョコをもらった部下から好意を抱かれていると勘違いをし、交際を申し込んだが玉砕。
男女の機微が分からないためアプローチはエスカレートし『つきまとい行為』『セクハラ行為』『脅迫』などと判断されて降格、失意のまま除隊となっていた。
タイミングが悪かった。
そしてあまりにもモテなさすぎた。
おそらく、戦時中であれば勇猛果敢なグロスはお目溢しを受けていた可能性が高い(良し悪しは別としてだ)。
そして、少しでも女性経験があればあんなことにはならなかっただろう。
その点、俺はまあ――あまり恋人がいた時期はないが未経験でもなかったし、若いころはプロフェッショナルによく稽古をつけてもらっていた。
それに……グロスの事件があってより、俺は女性隊員とはなるべく接触しないように気をつけて行動するようになったのだ。
なにがセクハラになるのかは分からない。
ならば女性に近づかないのが確実だと考えたからだ。
「俺は全てを失った。セクハラでの除隊は再就職にも影響し、俺は逃げるように魔王領を去った――だがっ!」
グロスは腰にぶら下げた杖をこちらに向ける。
魔法の触媒だ。
杖の先から魔力光がほとばしり、俺のいた場所を閃光が襲う。
かわさなければ当たっていただろう。
「再び俺はこうして居場所を得た! ダンジョンブレイカーとしてな!」
どうやら話はここまでのようだ。
だが、どうしても気になることが1点。
「待て! 1つだけ聞きたい!」
「良かろう、冥途の土産に教えてやる。俺の今の主は反乱軍の首魁ドワルゲス様だ。すでに計画は動き出した、誰にも止められんぞっ!」
なぜかグロスがとんでもない情報を口にした気がするが、それはいい。
「待て、そうじゃない。俺が聞きたいのは、その格好の理由だ。お前にはコスプレ趣味はなかったろう、隠してたのか?」
「ふん、俺は変わったのだ! ダサい俺はもういない! こうしてカッコいい男のファッションを真似ているのだ!」
なんというか、完全に狂ってやがる。
なんで古いコミックのコスプレがカッコいいのか……これが理解できる悟性は俺にはない。
「そ、そうか……それなら仕方ないな」
「もはや問答は無用! お前たちはドワーフを抑えろ! 手出しは無用だ!」
なんだか毒気をうまく抜かれてしまったが、防壁の効果も消えているようだ。
かつての友人との再会、そして戦い。
よく分からない急展開についていけないが、負けるわけにはいかない。
俺は2本目の剣も抜き、左右の手で構えをとった。
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