111話 私が粛清しようというのだ

 グロスの腰より閃光が飛ぶ。

 これを合図に敵味方5人が散開し、戦いが始まった。

 俺とグロス、ゴルンと他2人がそれぞれ対峙する形だ。


 重武装で粘り強く戦うゴルンがたやすく敗れるはずはないが、それでも互角のレベルと2対1だ。

 どうにかして援護をしたいところではある。


「よそ見か! その余裕がいつまで続くかっ!」


 グロスはジグザグに移動しながら閃光を立て続けに放つ。

 言葉で挑発を繰り返しているのはこちらの集中力を削ぐためだろう。


(速い、が……閃光自体は大した威力でもないな)


 ムダに動く敵には合わせる必要はない。

 俺はどっしりと腰を据えて剣で閃光を打ち払う。


「まだまだ上げるぞ! 3倍のスピードだ!」


 グロスは魔法で身体能力を上げ、さらに魔力を操作して剣を作り出す。

 相変わらず顔に似合わぬ多彩な技だ。


「防ぐだけかっ!? 何を待っている!」


 3倍はさすがに言い過ぎだが、鋭い斬撃が俺を襲う。

 2撃、3撃とかわし、剣を合わせる。

 互いの剣がうなり、火花を散らした。


 フェイントじみた攻撃は鎧で受け、さらに7撃、8撃としのぐ。

 さすがに鎧を着込んだ俺のほうが接近戦は分があるようだ。


 一見、派手に攻めているグロスだが、動きが派手なだけに無呼吸で続くものではない。


(……よし、ここだ!)


 俺はグロスが引いた瞬間に練り続けていた魔力を開放し、一気に駆ける。


 突進チャージの魔法。

 狙いはゴルンと戦う51レベルの男だ。


「ウオオォッ!」


 雄たけびと共に切り下げた剣は男の盾に防がれた。

 だが突進の本領はここからだ。


「オオオオォォッ!!」


 そのまま俺は肩から体当たりを食らわし、男を壁まで吹き飛ばした。

 不意打ち気味に入ったこともあり、壁に叩きつけられた男は「ガハッ」と大きく息を吐いて動けなくなったようだ。

 背中を強打したのだ、意識があっても息が詰まってしばらくは動けないだろう。


「一騎打ちの最中に卑怯だぞ、俺を無視するなっ!」


 グロスは激高し、俺を責める。

 だが、一騎打ちなどアチラの都合でしかない。


 俺が1人仕留めたことで残るクズもこちらを無視することができなくなった。

 それだけでゴルンは有利になるだろう。


 チラリと倒れた男に目をやると、なんとインセクト・ワーカーに武器を取り上げられ拘束されている。


 これには俺も驚いた。

 だが、素晴らしい援護には違いない。


「ホモグラフトっ! キサマ恥をしれっ!」

「知るかよ。こっちのホームグラウンドに乗り込んできたのはそっちだろう」


 当然、グロスとクズはそちらに向かおうとするが、俺とゴルンがそれを阻む。

 簀巻すまきにされた男はハーフ・インセクトの巣に消えて2対2の状況となった。


 男は鈍くもがいていたが、口を封じられ、完全に簀巻きにされてはどうすることもできないだろう。

 ひょっとしたら噛みつかれたときに神経毒や麻痺毒を注入された可能性もある。


 動かなくなった男が繁殖用に使われるか、食料になるか、それは俺には分からない。


「お前はいつもそうだった!」


 グロスが悲鳴をあげるように叫び、斬りかかってきた。

 それと同時に魔力の矢がこちらを狙う。


 魔力の矢をかわし、剣をいなすとグロスは独楽コマのように体を回転させて連続蹴りを放ってきた。

 そのヒステリックな様子とは裏腹に魔法、剣技、体術を組み合わせた恐るべき格闘術だ。


「キサマはっ! いつも要領よく立ち回り、俺の前に立ちはだかってきた! 俺は何度も女から『これホモグラフトさんに渡してください』と頼まれたっ!」

「そんなこと知るかっ! 初耳だ!」


 俺とグロスは子供のように罵り合いながら互いに攻撃を繰り出し、かわしていく。


「キサマが知るものかよ! チョコレートは俺が食ってやったわ!」

「それはそれでどうなんだっ!」


 俺は左右の手で剣を振るう。

 直線的でムダを削いだ攻撃だ。


 一方のグロスは派手に動きながらも緩急を巧みに織り交ぜた攻撃を見せる。


 タイプはまるで違う。

 だが、それゆえに戦いが噛み合った。


 グロスの横面を狙い、俺の剣が疾走る。

 しかし、その剣をグロスは体を反らしながらかわし、無茶な体勢から蹴りが飛んできた。


(……まるでサーカスだな! これはかわせん!)


 俺はあえて脇腹にグロスの蹴りを受け、先ほどとは反対の腕で剣を振り下ろす。

 ガキン、と剣は床を打った。

 手応えはない。


「キサマはいつもそうだ! あの女上司も、情報局の女も、兵器局の女も、キサマは女を利用して上手く立ち回る! 俺はお前が憎い、モテる男が憎いのだっ!」


 もはや支離滅裂だ。

 俺にはグロスの言っていることが理解できない。


(完全な被害妄想だな。俺はここ10年、モテた記憶はリリーからしかないぞ)


 俺は溜めていた魔力を開放し、複数の炎の矢でグロスを狙うも巧みにかわされた。

 魔力の操作ではアチラに分があるようだ。


「その上っ、魔王陛下に王女殿下だとっ!? 恥を知れ好色漢め! 鈍感系チーレム野郎がっ!!」


 グロスの目は血走り、口からは泡を吹いている。

 見るからにヤバそうだ。


 グロスは魔力の剣をふるい、さらに接近戦を挑んでくる。

 先ほどよりも鋭く、攻撃的な動きだ。


「モテる男が得をする、モテない男は犯罪者となる! そのような国は私が粛清しようというのだ!」

「そいつはどう考えてもエゴだろう!?」


 互いの剣を打ち合うこと数合、俺は違和感に気がついた。


 とっさに身を翻すと、頭部に強い衝撃を受け、兜が飛ぶ。

 そのまま本能的に後ろへ跳び、追撃をかわすと強い剣風が顔の前を通過した。


 見ればグロスの剣は柄からも刃が伸び、不思議な形状となっている。


(あれにやられたのか)


 綺麗に不意をつかれた形だ。

 敵ながら見事と褒めるべきだろう。


「くくっ、やるな。俺の編み出したビームナギナタをかわすか」


 グロスは不敵に笑い、こちらに刃を向ける。

 その奇妙な武器をバトンのようにグルグルと回すのは威嚇だろうか。


(それのどこが薙刀なんだ?)


 俺は湧き上がる疑問を抑え込み、剣を構える。

 認めよう、今のコイツは強い。


 だが、強い者が勝つとは限らないのが戦いなのだ。

 勝機は五分、俺は口元が喜びで歪むのを感じていた。

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