103話 冒険者サンドラ16 下

「見たかい? なんだアレは?」

「分からないでやんす! でも追いかけるでやんすよ!」


 リンの言葉に皆が頷く。

 彼女が『分からないが、追え』と言ったのだ。

 これは第六感や未来視の可能性が高い。


 事情を知らないローガンのみが「え?」と戸惑っているが、これは仕方ないだろう。

 リンもローガンにスキルを説明するほど気を許してはいないのだ。


「動きは変だが、細っぽくて弱そうな感じはしたな。誘い込みよりは逃げただけって感じだが、どんなもんかね」

「だが、あの長い武器……振り回されては厄介だ」


 ドアーティとオグマが皆に聞こえるように意見を交換している。

 こうして気づいた点を伝えているのだ。


(たしかに背が高くて武器が長い、か……だけどリンの魔法を使うほどでもなさそうだね)


 サンドラは仲間の意見に頷きながら慎重に亜人の追跡を行う。


 亜人タイプの脅威は道具を使うことだ。

 殺傷力のある武器に毒を塗る場合もある。

 レベルに差があっても油断はできない。


 サンドラたちは途中、トビトカゲやカニと遭遇しつつも撃破し、先を進む。


 とうに亜人たちの姿は見失ってしまったが、それでも追跡のしようはある。

 泥の中に残る独特の足跡をたどりながら建物にたどり着いた。


「遺跡だね、ここに入った」

「情報だとここは行き止まりじゃないのか?」


 サンドラもドアーティの疑問には答えることはできない。


「考えるのは後さ。リン、あそこのデカいヤツをやってくれ。表面を焼くだけじゃすぐに回復しちまうらしい、熱波ヒートウェイブだ」

「了解でやんす!」


 考えるよりもサンドラは遺跡のガーディアンと呼ばれるモンスターを撃破することを優先した。


 このモンスターはローバーの上位種とも言われている強力なボスらしい。

 ほとんど動かないのが特徴で、冒険者が近づくと強力で長い触手を吐き出すため、近づかずに魔法で仕留めるのが良いとされている。

 非常に生命力が強く、弱い魔法でダメージを与えても時間が経てば回復してしまうそうだ。


「いくでやんすよ! 黒焦げにしてやるでやんす! 熱波ヒートウェイブッ!」

「どああっ!?」


 リンが短刀で狙いをつけ、カッとまばゆい閃光を放つ。

 その熱量はすさまじく、側にいるだけでチリチリと肌を焼かれるような痛みを感じる。


 その後ろでローガンが大げさに悲鳴を上げてひっくり返った。


「なにやってんだい」

「いや、熱波って言うから……驚いちまって」


 どうやらリンの魔法を見て腰を抜かしたらしい。

 熱波とは通常『熱で敵を弱らせる魔法』だが、魔力異常があるリンが放てば『閃光で敵を焼き払う魔法』となる。

 驚くのも無理はない。


 遺跡のガーディアンは熱に苦しみうぞうぞと触手を吐きながらうごめく。

 その様子はあまりにおぞましく、サンドラほどの冒険者でも気味のよいものではない。


「ふう。動かなくなったけど、どうでやんすかね。何もしてないオジサンに槍で突っついてもらうでやんす」

「ったく、普通に確認してくれって言えよ」


 ドアーティがブツブツと文句を言いながら遺跡のガーディアンを槍で突く。

 ガーディアンはビクリと体を跳ね上げ、そのまま動かなくなった。


「死んだな」

「死んだでやんすね」


 ドアーティとリンが遺跡のガーディアンを観察しているが、どうにも剥ぎ取るべき素材が分からないようだ。

 サンドラとオグマはそれには加わらず、宝箱に近づいていく。


「……罠は簡単なのがついてるね。子供だましさ」

「そうか、ならば開けるのは任せよう」


 宝箱は2つ。

 両方とも極めて簡素な罠が仕掛けられている。


(うーん、囮の見せ罠でもないね。雑な作りだ)


 サンドラは宝箱の脇から見えるワイヤーを外し、蓋を開けた。

 そこには発射されなかった矢がこちらを向いている。


「これは……例の魔石ってヤツか。こっちはお宝だね、装飾品とかコインが入ってる」

「ほう、それは朗報だ」


 無愛想なオグマが少なくない財宝を見てニマリと笑う。


(……本当に銭が好きな男だね)


 サンドラは苦笑しつつも、オグマが若いころに苦労したことを知っているので何も言わない。

 金で苦労しすぎると、窮地を脱してもクセとなり執着しすぎてしまうものなのだ。


「さて、問題は亜人がどこに隠れたか……隠し部屋でもあるのかね?」

「見た感じでは隠れることはできそうにない。こうなるとリンの看破が頼みだ」


 観察のスキルがあるオグマにも遺跡内におかしなところは見当たらないらしい。

 探索ではオグマの観察スキルとリンの看破、第六感が力を発揮する。

 赤魔法使いに声をかけられた理由もこれらのスキルの有無であった。


「おーい、リン。解体が済んだら手伝っとくれ」

「ちょっと待っでやんす! 臓物の中から石が出たでやんす! きっとお宝でやんすよ!」


 無邪気によろこぶリンを見てサンドラは苦笑し、オグマは「はあ」と小さくため息をついた。

 リンはオグマとは違った方向でケチであり、小さな成果を取りこぼしたくないのだ。


「いいじゃないか。ここから亜人を追うなら先は未発見エリアさ。ひと息入れて万全を期すのは間違いじゃない」

「ふん、亜人の痕跡が消えなければいいが。のんきなものだ」


 オグマも悪態をついているが口元は薄く笑っている。

 未発見エリアを発見し、探索するのは冒険者の名誉であり夢だ。


 もちろん実利もたんまりとある。

 情報を持ち帰るだけで少なくない金になるのだ。


 その後、リンとオグマが協力し、遺跡内に隠し階段を発見した。

 これは魔法的な隠蔽が施されたもので、今まで発見されなかったものらしい。


「明らかに箱は下を示しているな」

「……ちょっとヤバい感じはするでやんす。退路を確認しながら行くでやんす」


 リンに言われるまでもなく、未踏破のエリアはヤバいに決まっている。

 全く前情報のないダンジョンを文字通り手探りで進むのだ。


「少し暗いみたいだ。念のために灯りはそのままで行くよ」


 幸い、このダンジョンのモンスターは弱く、まだパーティーに余力がある。

 サンドラは「このメンバーなら行けるよ」と自らに言い聞かせ、階段へと踏み出した。




■パーティーメンバー■



サンドラ


レベル35、女性


偵察(達人)、剣術(上級)、罠解除(上級)、投擲(中級)、統率(中級)、盾術(中級)、交渉(初級)、モンスター知識(初級)、隠密(初級)、カリスマ(初級)




ドアーティ


レベル34、男性


製図(達人)、槍術(達人)、調理(上級)、精霊術(上級)、農業(初級)、統率(初級)、挑発(初級)、扇動(初級)、詐術(初級)、精霊の加護ギフト




リン


レベル34 、女性


攻撃魔法(達人)、第六感(達人)、看破(上級)、短剣術(初級)、応急手当(初級)、未来予知(初級)、先天性魔力異常ギフト




オグマ


レベル33、男性


射撃(達人)、観察(上級)、剣術(上級)、応急手当(上級)、体術(中級)、隠密(中級)、モンスター知識(中級)、偵察(中級)、扇動(初級)、威圧感(初級)




ローガン


レベル14、男性


体術(中級)、過重行動(初級)、偵察(初級)

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