103話 冒険者サンドラ16 上
ソルトヒルに着いた翌日から、サンドラたちは塩の洞窟に挑む。
今回はお試しでポーターのローガンも同行している。
もちろん臨時の彼には赤魔法使いよりの依頼は秘してあるし、知られたところで分け前はない。
「ローガン、見てみなよ。あそこと、あれは擬態だ。分かるかい?」
「いや、まったく分からねえ。何かいるのか?」
戸惑うローガンの様子を見て「ま、初めはそんなもんさ」とサンドラが
放たれた石弾はうなりをあげ、岩に擬態をしていたロッククラブに命中した。
それを2度繰り返し、擬態をといたロッククラブをドアーティとオグマがアッサリとしとめる。
このパーティーにとって1階層に脅威はなく、サンドラもこうしてローガンに稽古をつける真似事ができるのだ。
「
サンドラは以前、自分が受けたような手ほどきをローガンにあたえていた。
先輩ぶるのではなく、それが以前に受けた恩に報いることだと考えたからだ。
冒険者の渡世は狭いのだ。
本人に返さなくとも、こうして誰かを助ければ巡り巡って用心棒斥候(19話参照)の縁者を助けることもあるだろう。
冒険者の中には長い時間をかけ、それこそ命がけで得た経験や技術を安売りしたくないという者もいるし、それをサンドラも否定はしない。
サンドラは『教えたいから教えている』だけだ。
「たしかに格闘家は軽装だからな。斥候もアリなのか」
「ムリにとは言わないけどね。アタイはもともと
ローガンは少し意外そうに「へえ」と口にした。
今のサンドラは斥候がメインだ。
メインのジョブが変わるのはそれなりに珍しい。
「やれやれ、面倒見のいいことだ」
「いや、あれこそが冒険者の先達としてあるべき姿、立派なもんさ」
オグマはやや呆れた様子で、ドアーティは懐かしそうにサンドラとローガンを見守っている。
本気で止めないところを見るにオグマも口ほど嫌がってはいないだろう。
「やっぱりご機嫌でやんすねえ」
「ま、こんな話も余裕がある時だけさ。油断せずに行くよ」
そう、サンドラはリンの
ローガンへの指導も気分がいいから積極的なものとなっている面もある。
リンも「ま、いいでやんすけど」と少し呆れ顔だ。
そのままサンドラパーティーは快進撃を続ける。
ソルトゴーレムやバンシーなど、クセのあるモンスターは出るものの、サンドラたちの敵ではない。
転移のカラクリもネタは支部長から聞いているし、あっという間に2階層を突破した。
「3階層か。照明も用意せにゃならんし、まずは小休止といこうや」
ドアーティの提案で階段脇に荷物を下ろし、一堂はランタンに火を灯す。
ローガンのみは松明だが、ガラスが使われるランタンは高価でなかなか買えるものではないのだ。
「いやー、今回はポーターがいるから助かるな」
「そうでやんすね。塩なんかはかさばるし、普段なら泣く泣く置いてくるしかないでやんす」
ドアーティとリンがローガンを労いながら補給の
ローガンも「あ、すんません」とまんざらでもなさそうだ。
低級の冒険者はとにかく金がない。
2人ともサンドラとは違う形でローガンを気づかっているのだ。
なんだかんだで人がいいのである。
「どうも北か西だな。どちらが、とは判断がつかんが――」
ロクに休憩せずにウロウロとしていたオグマは探知機の反応を見ていたらしい。
抜け目のないオグマらしい行動だ。
「なら北から行くとするかい。情報じゃ3階層までだけど大規模な
「ああ、情報通りに支度をした。今までの通りなら問題はない」
サンドラの言葉にオグマが頷く。
わざわざ『今までの通りなら』とつけ加えるのは警戒を促しているのだろう。
未確認ながら『未知の亜人がいる』との情報もある。
「さ、休憩は終いだ。行くよ」
この短い休憩にローガンは驚いたが、そもそもサンドラたちは消耗していないのだ。
3階層の悪い足場の中、危なげもなくモンスターを蹴散らしていく。
「……いたよっ、アイツだ!」
3階を進む中、サンドラは数体の亜人を発見した。
カニの殻のような装甲を身につけ、ヒョロリと背が高いシルエットだ。
全員が長柄の武器を持っている。
(なんだ……? モンスター同士でやりあっていたのか?)
上階でも目にした長いヘビのモンスターを数人がかりで運んでいるようだ。
モンスター同士で争うことはないでもないが、人間を襲うことを優先するために珍しいことではある。
(……アイツら、逃げる? 誘い込みか? 【注・後述】)
当然、灯りを掲げるサンドラたちは亜人に発見されたが、彼らは不思議な動きを見せた。
ごく一部を除き、ダンジョンモンスターは冒険者を見つければ襲いかかるものだ。
だが、彼らは背を向けて走り出したではないか。
抱えていたヘビも投げ捨て、まさに一目散といった様子である。
【注・リポップモンスターは単純な行動しかとりませんが、稀にダンジョンマスターの指示を受けたDPモンスターが罠を張ることもあります】
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