85話 エドさんが拉致されたら大変っす
さて、
ゴーレムはある程度のコントロールが可能だが、大雑把な指示しかできないのだ。
「俺やゴルンが指揮するのが手っ取り早いが、さすがに見られるだろうしマズい」
「そりゃそうだな。だが、あまり思考力がないリポップモンスターじゃダメだろうぜ。指揮官タイプのモンスターをDPで召喚するのが無難だろうよ」
ゴルンが言うように、指揮官として新たな保安職員を雇うよりはDPモンスターを召喚するのが現実的だ。
だが問題はどんなモンスターを呼び出すかだろう。
「候補は人に近いモンスターっすね! でも、あんまり賢いと使い捨てにはしづらいっす! 人と変わんないっすから!」
「なるほどなあ。それは一理あるな」
たしかウェンディのダンジョンでお手伝いさんをしていたインキュバスもいたが、あそこまでいくと普通の職員と変わらないだろう。
タックのアドバイス通り、人に近すぎるのは控えよう。
「よし、作戦行動がとれるほどに賢く、あまり人に近くないモンスターだ。なにか案はあるか?」
俺の言葉を聞き、リリーが黒板に『知能が高い』『人に近すぎない』と大書した。
あいかわらずメガネをかけてる時のリリーはキリッとしている。
「うーん、牧羊犬みたいな感じですか?」
「それだと誘導はできても作戦の理解は不安っす! アタシはアンデッドを推すっす!」
アンとタックが意見を出してくれるが、どうもシックリこない。
思考力を残したアンデッドとなると吸血鬼のような存在になるだろうが、その場合は夜間の行動に限られてしまうだろう。
ゴルンが「人面犬にするか?」と口にするが、もちろん冗談だ。
人面犬は単に顔が人に似ている犬のモンスターで知能は低い。
「ゴーレムの指揮官となると群体としての行動をとるモンスターがいいですね。ハーフ・インセクトでしょうか?」
「ハーフ……半虫人? どんなモンスターなんだ?」
リリーに訊ねると「ちょっと待ってください」と資料をパラパラとめくる。
すでに彼女には心当たりがあったらしい。
「ここから、このページまでです。ハーフ・インセクトは特殊な性質のモンスターで階級があるんです」
「階級? 軍隊のようだな。どれどれ」
リリーが差し出したページには『インセクトクイーン』とある。
人間を外骨格にし、昆虫の腹をつけたような不思議な姿をしてる。
「ハーフ・インセクトは
「なるほど、クイーンが女王バチなんだな。オフィサー、ドローン、ワーカーはそのままのイメージかな?」
高度な意思を持ち、繁殖を行うクイーン。
大きな昆虫の腹を持つのが特徴的だ。
ただ、繁殖のみに特化しているために戦闘力は極めて低い。
オフィサーは現場監督としてドローンやワーカーを統率する階級だ。
イチバン人間に近い姿をしている。
知能はクイーンに次いで高く、戦闘指揮も可能だろう。
兵隊として外敵と戦うドローン。
ガッチリとして背が低く、ドワーフのような印象だ。
単純な戦闘力は高いが知能は最も低く、オフィサーがいなければ単純な行動しかできない。
労働者として様々な仕事を行うワーカー。
棒人間のようにヒョロッとした姿をしている。
見た目通りに弱いが、数が多いのが特徴らしい。
ドローン同様に知能は低いようだ。
「かなり特殊なモンスターなので、個体の強さで言えば最強のドローンよりもクイーンやオフィサーの方が驚異度が高いとされ高レベルの設定がなされています」
「ほう、それは面白いな。考えてみれば繁殖力の強いクイーンはかなり危険なモンスターだ」
それぞれ、クイーンが40、オフィサーが25、ドローンが18、ワーカーが8とレベルが設定されている。
ただし書きがあり、ハーフ・インセクトは群体だと危険は跳ね上がるとある。
「いいっすね! これなら場所さえあれば繁殖してくれるっす! ゴーレム部屋と併せて4階に巣を造ればいいっす!」
タックが喜んで手元のメモに書きこんでいる。
何やらアイデアを得たようだ。
「そうか、そういうのもあるのか。ハーフ・インセクトは飼育? できるのだろうか」
「そうですね、知能が高いとはいえ多様性や発展性はあまりない種ですし、スペースさえ与えれば反乱などはないと思います。数は一定数を冒険者に間引かせれば増えすぎることもないでしょう」
リリーは資料を見ながら教えてくれる。
どうやらハーフ・インセクトは人と虫型モンスターの中間くらいの存在だと考えて良さそうだ。
「繁殖はクイーンが拉致した他種族と交配するようですが、特殊なフェロモンを出す香料があれば襲われることはないみたいです。こちらも用意しましょう」
「うしし、エドさんが拉致されたら大変っすからね!」
タックがリリーをからかっているが、さすがに俺もハーフ・インセクトに拉致されるのは勘弁してほしい。
香料とやらも準備するとしよう。
「クイーンだけってわけにもいかんだろうし、まとまった数が必要だな。単独で呼ぶとどのくらいDPが必要なんだ?」
「ええと、計算しますからお待ちください」
リリーが順に数字を黒板に書いていく。
クイーンが800、オフィサーが500、ドローンが360、ワーカーが160のようだ。
リポップと違い、個体によって多少の誤差もあるらしい。
「リポップと比べるとさすがに安いが、そろえるのは大変だな」
「そうですね、とりあえず派遣するのはオフィサーと護衛のドローン数体くらいで十分ではないでしょうか。あとはクイーンとワーカーは必須ですね」
タックがふんふんと頷きながらメモをとっている。
基本的に彼女は仕事に真摯なのだ。
「そんじゃ、4階層のデザインはハーフ・インセクトの巣をイメージした造りにするっす! 遺跡を入り口にするっす!」
「へえ、悪くないな。4つも造るのか?」
俺の質問にタックが「うーん」と唸る。
「初めは1つか2つっすね! 繁殖してコロニーが増えたら4つにするっす!」
「なるほどな。それなら全滅もねえだろうし、複数の巣を造るのは悪くねえな」
珍しくゴルンもタックに賛成のようだ。
「形はすぐできるっすよ! あとは適度な温度に湿度っすかね!」
「そうですね。十分な食料と、あとは繁殖用に冒険者でも捕まえればいいんでしょうけど――」
資料によればハーフ・インセクトは条件さえ整えばあっという間に増えて手がつけられなくなるらしく、注意が必要なほどらしい。
(しかし、繁殖用に冒険者を捕まえるのもなあ……DPで適当なモンスターを見繕うか)
いまさらなのかもしれないが、さすがにダンジョンで事故死するのと繁殖用に拉致されるのでは同じ死でも意味合いが違う気がするのだ。
(まあ、そのうちハーフ・インセクトが自分たちで拉致してくるだろうし、勝手な感傷なんだろうが……)
それでも割り切れない部分はあるのだ。
こればかりは理屈ではない。
「
「なら善は急げっすね! さっそく工事に入るっすよ!」
俺の感傷をよそに、リリーとタックは張りきっている。
さて、ハーフ・インセクト、うまく共存できるといいのだが。
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