27話 ゴーレムの素材は決まったぞ
開拓村から戻ると、アンがへたりこんでしまった。
気疲れしたのだろう。
俺は身ぶり手ぶりでマスタールームに合図を送り、転移してもらうことにした。
虚空に向かって手を振る俺はバカみたいだが、試練の塔で使ったヘッドセットのような音が伝わる魔道具がないのでしかたない。
モニターでは音声は拾えないのだ。
マスタールームでは「アン、大丈夫ですか?」と真っ先にリリーが気づかいたずねた。
さすがお姉さまだ。
タックはちょっとうろたえ気味にのぞき込んでいる。
こちらは意外と気が小さい。
「危ない目にはあってない。カルチャーショックで疲れたみたいだ」
俺の言葉にアンがコクコクとうなずく。
だが、顔色は悪い。
「すまなかった。アンはしばらく休んで、気分が悪かったら帰っていいぞ」
「いえ、逆に何か口直しをしたいです。あの食事でちょっと……」
たしかにあの麦がゆは酷かった。
俺も砂糖とミルクがたっぷり入った紅茶が飲みたい。
アンは自分でコーヒーを淹れてたが俺も欲しいぞ。
「ちょっとひどい食事だったな。でもゴーレムの素材は決まったぞ。塩だ」
「塩鉱脈か、あまりゴーレムの素材としては聞いたことねえ。渋いな」
ゴルンが言うように、塩ゴーレムは俺も聞いたことがない。
だが、当たり前だが鉄鉱脈や銅鉱脈から産出するのは鉄鉱石や銅鉱石だ。
あの開拓村ですぐに扱えるかは疑問だし、道路が未発達で冒険者が都市に運ぶにしても大変だろう。
あと、とにかく食事がマズいんだと俺は力説し、アンもうなずいている。
「モンスター辞典にはありますね。こちらがソルトゴーレムのステータスです」
リリーが見せてくれた資料を皆でのぞき込む。
ソルトゴーレムはレベル14、意外と強い。
ガーゴイルも塩でいいだろう。
「へえー、魔法無効っすか!」
「面白い特性だな。物理無効と組み合わせたらどうだ?」
タックとゴルンも調子が出てきたようだ。
ソルトゴーレムの資料を見ながら意見を出してくれる。
俺は皆の意見を黒板に書き連ねていくことにした。
「物理無効ならスライムかゴーストっすかね?」
「精霊もあるが、ちとレベルが合わんか」
おそらく、いまウチの攻略レベルは8か9くらいなので、2階層は攻略13〜16レベルくらいが適正か。
イフリートみたいな精霊系モンスターは強すぎる。
「ゴースト系ならレベル14のファントムか、レベル19のグラッジくらいでしょうか?」
「スライムは塩とか大丈夫なんすかね!?」
ファントムやグラッジは悪霊のようなモンスターだ。
物理無効と不気味な見た目があいまり、なかなか厄介な印象がある。
おなじみのスライムはベトベトのモンスターでレベル10だ。
プルンとしたゼリーとは違い、ベタッとした感じか。
「モンスター辞典で見る限り、特に塩に弱いとかはなさそうですね」
「まあ、ナメクジじゃねえしな」
どうやら、物理無効はスライムで決まりそうだ。
「塩鉱脈でDP2000、スライムも2000か……ソルトゴーレム、ソルトガーゴイル、スライムと、あとはボスか」
「なら、もう1種類くらい増やしてボスはモンスター部屋にするのはどうっすか!? こっちのほうがコストは抑えられると思うっす!」
俺は「よし、大部屋だな」と黒板に書いた。
特に異論もないし、2階層はモンスター部屋だ。
「スライムもゴーレムも遅いから足の速いヤツっすかね?」
「いや、ファントムはインパクトあるぜ。冒険者をビビらせるのも必要だろ?」
タックとゴルンは積極的に意見をだし、リリーは忙しそうに資料をめくっている。
「あー、このモンスター知ってます」
「あら、アンも見てみますか?」
少し所在なげにしていたアンが、知ってるモンスターを見つけたようだ。
見れば髪の長い女の幽霊のような、ちょっと不気味なやつだ。
「バンシーですね。妖精に分類されてますので物理無効ではないようです」
「このオバケがでると家の人が死んじゃうって聞かされてました。ちょっと怖いです」
これはリポップモンスターなので一種の魔道生物だが、地方には実際の伝承があるのだろう。
見ればレベルは13、手ごろなとこでもある。
「モンスターとしてどんな特徴があるんだ?」
「泣き叫び、その声を聞くと恐怖に囚われてしまうそうです。冒険者の動きを恐怖で止め、抱きついて体温を奪うモンスターです。あとクラムジーの魔法を使いますね」
クラムジーとは、かけられると構えている武器を取り落としてしまう地味だが恐ろしい魔法だ。
成功率が高いとは言えないが、乱戦でこれをくらうとキツい。
「いいんじゃないか? ゴーレムもスライムも直接攻撃するタイプだし、変化がつけられるな」
「そうですね。私もいいと思います」
バンシーのリポップはDP2600、モンスター部屋での乱戦では驚異になるだろう。
「よし、バンシーは採用。アンのアイデアだぞ」
「くやしいっす! 次は負けないっす!」
別に勝ち負けではないが、タックとアンは嬉しそうにしているから、これでいいのだろう。
「じゃあ、モンスターはこれでいいとして、構造部の図面を頼む。予算は5000以内で抑えてくれ」
「了解っす! ゴーレムメーカー様々っすね!」
決まるときは一気に決まるものだ。
「塩鉱脈はゴーレムメーカーの部屋に作っとくっす!そこで塩を採掘して、ゴーレムを作ればいいっす!」
「そうだな、そこはマスタールーム以外と繋げる必要はない。転移で送り込む形にすればいいだろう」
初めの数体は大変だろうが、ゴーレムやガーゴイルができてしまえば問題はない。
それこそ、その手の単純作業こそゴーレムが力を発揮するだろう。
「悪いけど明日、ゴルンはツルハシとかシャベルとか……採掘に必要な道具を買ってきてくれるか? 領収書を出してくれ」
「おう、ねこ車とかも必要だろうな。とりあえず適当に買ってくるぜ。採掘用のドリルとかはどうするよ?」
俺は「うーん、魔道ドリルか」と悩むが、とりあえず手作業の効率を見て判断することにした。
■消費DP■
レベル14・ソルトゴーレム(ゴーレムメーカー)
レベル10・ソルトガーゴイル(ゴーレムメーカー)
レベル10・スライム(リポップ)、2000
レベル13・バンシー(リポップ)、2600
塩鉱山2000
合計6600
残り6881
※ゴーレム部屋は構造部の収支に含みますので、今回は入ってません。
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