11話 これが、俺が作ったダンジョンか

 さて、午後からタックは現場に戻り、俺とリリーはダンジョンモンスターの選定である。


「まあ、ここはリポップだよな」

「そうですね。DPで召喚するほど思い入れがあるモンスターなら別ですけど、低級向けのダンジョンではリポップか、もしくはゴーレムやガーゴイルなどを自作するくらいでしょうか」


 リリーは少しためらいながら「もしくは」と言葉を続ける。


「その、人型のモンスターを召喚して色々と手伝わせる方もいる話は聞きますけども……知性があればダンジョンの管理もサポートできますし」

「ああ、ダンジョンがオープンすれば管理を任せることもあるか。スタッフも募集しなきゃな。ちなみにモンスターだと、どんなのが人気なんだ?」


 リリーは言いづらそうに「ウェンディさんのマスタールームにいたのはインキュバスです」と教えてくれた。


(ああ、色々なお手伝いってそういう……)


 言われてみれば、マスタールームは密室である。

 俺もリリーやタックと2人きりになって血迷う可能性はゼロとは言えない。


(いや、だがサキュバスとか呼び出したら色々とお察しされるし、それこそセクハラじゃないか)


 俺はハッと我に返る。


 この瞬間こそ色々とヤバいのではなかろうか。

 今の俺は部下の女性に恥ずかしいことを言わせて喜んでいるスケベ上司だ。


「いや、すまん。言いづらいことだったな……それはさすがに無いからな」

「はい。エドがそんな人じゃないのは知ってますから心配していません」


 うむ、俺もずっと……というか、未だに官舎に住んでるし、独身で両親とも死別している。

 わりと貯金もあるし、我慢できなくなったら休日にでもプロに頼めばいいのだ。


「そういえば、俺って未だに軍の官舎に住んでるんだよ。どこかに部屋を探さないとなあ」

「マスタールームに私室を作る方もみえますよ。買い出しや食事は転移で公社に戻ればいいわけですし」


なるほど、そいつはいい。

トイレはマスタールームに併設するとして、風呂は銭湯にでも行けばよいのだ。


「それはいいな。タックに伝えて私室とトイレくらいお願いするか」

「スタッフが増えたら寮みたいになるかもしれませんね」


 リリーがクスリと笑う。

 なんというか、柔らかくて良い笑顔だと思う。


 タックみたいに歯を見せて「あはは」と笑うのも嫌いじゃないが、なんというか……まあ、好みの問題だろう。


「どうかしましたか?」

「いや、引っ越しの算段をしていた。すまん、モンスターの話に戻ろう」


 俺は適当に誤魔化し、資料のうちでモンスターのカタログを取り出す。

 対象冒険者はレベル10よりやや低め、という感じで検索するので探す負担は少ない。


「水棲モンスターだな、なら掃除屋も兼ねたスライム系ならコイツだ」


 俺はウォーターゼリーというゼリーの亜種を指で示した。

 体内に溜めた水を勢いよく飛ばして敵を怯ませる特性がある。

 また、水中では水を噴射して素早く移動するらしい。

 コイツはレベル3のモンスターだが、水辺では危険度が上がる。


「いいと思います。私もウォーターゼリーか、スライムをオススメしようと思っていました。これは決定ですね」


 俺は黒板にウォーターゼリーと書き込む。

 これはアッサリ決まった。


「水を張った部屋があるので魚もいいと思うんです。意外と魚系のモンスターはダンジョンには珍しいかもしれません」


 リリーが提案したのはスローターフィッシュという細長い魚だ。

 ワニのようにゴツいアゴをした1メートル半くらいある肉食魚で、魔王領では毎年何人も犠牲者がでている。

 レベルは8だ。


「大丈夫か? 落とし穴で足をとられた時にコイツに襲われたら10レベルの冒険者は死ぬぞ」

「水中にしかいませんし、大丈夫です。むしろ雷撃が使えればカモになりますよ。水棲モンスターに雷撃は基本中の基本です」


 たしかに水棲モンスターに雷系の魔法は基本だ。


(だが、魔法使いが雷撃使えるとはかぎらんだろ。俺も雷系は使えないしな……)


 少し悩んだが、あまり弱いモンスターばかりも良くないということで採用した。

 弱点のある強敵枠だ。


「あと1種類かな?」

「水棲モンスターの素材集めができるダンジョンという意味では、もう2種類いてもいいかもしれませんね」


 ここでリリーが提案したのはジャンボカピバラ(レベル4)だが、ちょっとこれはどうだろう。

 リリー的には癒し枠のつもりらしい。


「うーん、イメージじゃないから保留だな。癒し枠が冒険者に狩られるのを見るのはリリーも嫌だろ?」

「そうですね……かわいいからちょっと残念です」


 リリーがかわいいモノ好きでもいいのだが、ならばなぜ先ほどスローターフィッシュのような凶悪なヤツを推薦したのだろう?

 ……女性の思考は俺には難しい。


 その後、俺たちはあれでもない、これでもないと言いながら2種類のモンスターを選びだした。


 ロッククラブ、レベルは5。

 コイツは岩に擬態するカニだ。

 体高が大人の膝くらいまであり、殻がとても硬い。

 油断している冒険者は不意打ちを食らうだろう。

 洞穴系のダンジョンにピッタリだ。


 ローパー、レベル4。

 長い触手で獲物を補食するデカいイソギンチャク。

 触手は5メートルほどにもなる。

 わりと強力なモンスターなのだが、全く移動できないためレベル4に設定されているようだ。

 遠距離攻撃ができないとキツいかもしれない。


 これにウォーターゼリーとスローターフィッシュを加えた4種がウチで採用されたザコモンスターだ。

 なかなかバランスがとれていると思う。


 上から襲ってくるモンスターも入れたくて俺は昆虫系を推したのだが、リリーが極端に嫌がったのでやめておいた。

 まあ、ローチとかは苦手な人も多いしな。


「あとはボスだが……軽めだし、レベルは12くらいか……?」

「それならこれはどうですか?」


 リリーがカタログで示したのはジャイアントカモノハシ。

 尻尾も含めて3メートル弱くらいあるカモノハシで、後ろ足の鋭い蹴爪けづめには強力な毒がある。

 レベルは12だ。


「ふふ、ちょっとかわいいですよね」

「だが荒っぽいぞ。襲われなくても何かの拍子で毒爪にやられると命に関わる。エサをやったりしないようにな」


 俺が冗談混じりで注意すると、リリーは真面目に「分かりました、気をつけます」と答えていた。

 ひょっとしたら飼育するつもりだったのかもしれない。


「難度はリポップ数で調整できると思うが、どうだろうな?」

「ええ、種類も揃えましたし、数を増減させれば問題ありませんよ。あとは宝箱ですね」


 こうして、ダンジョンの形が整ってきた。

 あと数日内には形が整うだろう。


(これが、俺が作ったダンジョンか……!)


 色々と書き込まれた図面をみると、ついにやけてしまうのが自分でも分かる。


 こうして完成が見えてきて年甲斐もなく興奮しているのだろう。

 オープンが実に楽しみだ。



 

■消費DP■


レベル3・ウォーターゼリー(リポップ)、600

レベル8・スローターフィッシュ(リポップ)、1600

レベル5・ロッククラブ(リポップ)、1000

レベル4・ローパー(リポップ)、800

レベル12・ジャイアントカモノハシ(リポップ)、2400


合計6400

残りDP7495

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