第9話 生首面の生配信(1)

 レンからの「連絡」は思ったよりも早く来た。金曜日の夕方だ。南雲が泣きついてきた、という内容ではなく、

「今夜配信するから見てくれ、だとよ」

 動画サイトに個人のアカウントを所有しているらしい。時折、家や会社にある骨董品を紹介しているのだとか。

「公務員は土日休みだから見られるだろうだとよ。現場をわかってないね」


 なお、警察官が土日完全に休めるかというと勿論そんなことはない。交代制だ。都伝は土日休みにはしているが、何かあればルイに連絡が来ることになっている。とは言え、異動してから今のところそう言うことはない。以前アサに教えてもらったが、そこまで緊急性のある内容だと、怪異ではなく普通の事件だと被害者も警察も思うので、最初に110番通報で事件として扱われる。それから、捜査を進める上で都市伝説らしい、ということになれば都伝にお鉢が回ってくる、という訳だ。

 そうは言っても、「これは怪異だから都伝に回そう!」と思う酔狂な捜査一課員や生活安全課員がいるわけもない(生活安全課は「この怪異が噂になってるらしいけど何ですか?」と問い合わせてくることはある)。先日、立川北署から回って来たテケテケは珍しいケースなのだ。


 それは置いておくとして、少なくとも都伝とレンは休みであったので、その日の深夜それぞれの家でビデオチャットを繋いで動画サイトにアクセスした。メグは自室で自分のパソコンから繋いでいるという。ナツは煎餅とお茶を用意してすっかりくつろいでいる。

「年寄りには堪えるよ、夜更かしってやつは」

 レンはしみじみして言った。定年前なのでまだ50代の筈である。

 定刻になって配信が始まった。ナツが煎餅をかじる音が聞こえるので、アサが「マイク切れ」と小声で命じる。ナツはすぐに言われたとおりにした。ルイもお腹が空いてきたが、今からパソコンの前を離れるわけにもいかないので我慢した。ナツは合理的なのだとその時に気付く。

(桜木さんって、佐崎さんには辛辣だよなぁ)

 そう言えばこの前も、ルイやメグを見てると人間捨てたもんじゃないと思う、でもナツは駄目だ、と言う様なことをアサが言っていたのを思い出した。だからと言って関係が険悪であるようには見えない。ある意味信頼関係というか、気安さなのだろう。漫才の相方と言うか……。

 南雲が前口上を述べている。入手経路や、霊能者──おそらくメグのことだろう──に見てもらったことなど。リアルタイムでコメントを書き込めるようになっており、興味を持つようなコメントがたくさん書き込まれる一方で、そんなことはあり得ない、と言うような否定的なコメントも散見された。

「お前たちが、あり得ないものをあり得るようにする」

 レンが呟いた。

「消極的な信仰によって」

 アサがそれに繋いだ。

 しばらくお待ちください、そろそろ時間なので。南雲がそう言ってフレームアウトすると、画面の真ん中には件の面が映るだけだった。

「そう言えばね」

 そこで、ルイは切り出した。

「都市伝説の本を買ったんだけど」

「そんなもん対策室にあるよ。経費で落としてやるから領収書出しな」

 マイクを入れたナツが口を挟んだ。ずずず、とお茶を啜る音がする。

「レシートしかないよ。で、それに乗ってた、このお面のこと」

「何て書いてあったの?」

 メグが尋ねる。彼女も何か飲んでいるらしく。カップを置く音が聞こえた。

「これと全く同じ事。霊能者が『これは生首だ』って言うところで終わってるんだけど、そこから先のことは、何も」

「マイナーなんですね」

 アサが頷いた。

「出典も書かれてたから、それが載ってる本は他にある。だから、その怪異を伝聞でも知っている人はそれなりにいるはず。それが何かのきっかけで具現化しちゃったのかもしれないね」

「そうですね。そう言うことだと思います」

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