第4話 メグの「おじさん」(1)

 東京都千代田区、警視庁本部庁舎地下。都市伝説対策室。

「おはよーございます!」

 コンサルタントの五条メグは、いつもの時間に出勤してきた。佐崎ナツ警部補(彼女は出勤が異様に早い)、室長である久遠ルイ警視、事実上のまとめ役である桜木アサ巡査部長が早めに出勤して、それから少しして出勤してくる。染めた赤毛にゴシックロリータ風のワンピースでのお出ましだ。

 メグは平たく言えば霊能者である。怪異とそうでないものの区別が付き、怪異についてはその質や正体まで看破してしまう。戦う手段はないが、分業制の都市伝説対策室……通称・都伝の中ではそれで充分だ。

 ゴシックロリータ風のワンピースは、少しばかり本人の趣味もあるが、奇抜な格好をしている方が霊能者らしい、と言うのが理由の一つでもある。


「おはよ」

 唯一の同性にして、メグを妹の様に可愛がってくれているナツが笑顔で手を上げる。

「五条さんおはよう」

 ルイもパソコンから顔を上げた。

「おはよう」

 アサは素っ気ない。でも、その素っ気なさが良いのだと彼女は思っていた。メグは荷物を置いて手洗いとうがいを済ませると、大きなリボンが付いたブーツを鳴らして室長の机の前に立つ。

「ルイさん、話しかけても良い?」

「どうしたの?」

「あのね、ちょっとうちのおじさんが都伝に頼みたいことがあるから、九時になったらすぐ来るって」

「なんだって?」

 それに反応したのはアサとナツだった。

「五条さんのおじさんって?」

 二人はメグのおじを知っているのだろう。困惑したような顔をしている。

「メグのおじさんってそりゃあ……」

 ナツが言いかけた時だった。ドアがノックされる。

「あ、おじさんだ」

「どうぞ」

 アサが声を掛けると、ドアが開いた。入室してきたのは、背の高い男性。

「──蛇岩警視正!?」

 蛇岩レン警視正。ルイの前任にして、指名した張本人。

「おお、おじさん時間ピッタリ」

「警察官とあろうものが時間破っちゃおしめぇよ」

「五条さん、警視正のことおじさんって……本当に親族だったの!?」

 ルイは目を剥いて身を乗り出した。その様子を見てナツが声を殺して笑っている。アサが苦笑しながら、

「そうです。レンさんは五条の……母さんの兄さんか?」

「そうだよ。私のお母さんのお兄さん」

 伯父ということか。そこまで理解してから、ルイは目を瞬かせ、

「えーっと、今回の相談者は警視正ということですか?」

「ああ。そう言うことになる。ちょっと面倒臭いことになっててな……」

「レンさん、とりあえずあちらのソファにどうぞ。お茶を淹れます。室長、レンさんからお話を」

「おう。邪魔するぜ」

 レンはすたすたと奥の応接スペースに入って行った。ルイはナツに促されて追い掛ける。メグがその後に続いた。

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