第7話 失意

「公務災害の書類は後日お持ちします」

「わかりました。本日のお会計はこちらですね。自費なので……」

「カード使えます?」

 診察はすぐに終わった。血液検査は後日結果がわかると言うが、すぐわかる結果とレントゲンでは異常なし。支払いを終えた頃には、ルイはすっかり疲れ果てていた。アサがいなければしゃがみ込んでしまいそうだ。

「室長、大丈夫ですか? 薬局は俺が行くので車で待っていてください」

「ううん、大丈夫。自分で行けるよ……」

「室長、あなたの怪我は腕だけじゃないんですよ。心もショックを受けている筈なんです。だから無理しないでください」

「何かしてないと泣きそう。情けなくて」

「わかりました。付き添います」

「ありがとう」

 アサに礼を述べて、そう言えばナツとメグに礼と詫びを告げていなかったことを思い出す。

 念のため破傷風の予防注射をされ、院外処方箋には抗生剤と痛み止めの薬が印字された。アサを車で待たせて、院外薬局で薬を引き替える。容疑者に噛み付かれまして、と情けない顔で笑った。薬剤師は心配そうにしてくれた。

 説明を受けて、アサの待つ車に乗り込む。

「このままお送りします。ご自宅はどちらに?」

「一回庁舎に戻る」

「室長」

「佐崎さんたちに報告しないといけないから」

「わかりました」

 アサはスマートフォンを取り出すと、ナツに電話を掛けた。

「俺だ。室長の病院は終わった。ああ、血液培養はこれからだが、テケテケだから感染はないだろう。レントゲンも異常なしだ。え? ああ、それは大丈夫だ。これから戻る。室長も一緒だよ。本人たっての希望だ。良いだろ? じゃあな」

 通話を切ると、彼はすぐに車を発進させた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る