第3話 資料
安藤が送ってきた資料は、スキャナで取り込んで全員の端末で共有した。
「これは典型的なテケテケですね」
アサが呟く。下半身がない、上半身だけの怪異。
「俺が見たのは、サッカーをやってたら、という話ですが彼はバスケですか」
「スポーツの種類が出現条件じゃないってことか。それにしても、高校の校庭に一人だったの? どこかしらの部活がグラウンド常に使ってるかと思ってた」
「試験一週間前……」
メグが唸るように言った。
「それなら部活はないよね。中学はそうだったよ。仮にそうだとすると、その子はすごく余裕ぶっこいてバスケしてたことになるけど」
「いや、部活はあったらしいよ。発見者は悲鳴を聞きつけた教職員と、部活に出てた文化部の子だって。試験はもう終わってるみたい」
そのことについては、後で安藤に確認した際に次の様な返事があった。
「暑かったんですわ。いや、正確には、予想最高気温が三十五度で、その時点で顧問が練習中止を言い渡してたんですね。結局そこまで気温は上がらなかったんですが、すでに部活の代わりの予定を入れていた部員もいたので、そのまま」
被害者の大川拓真は、そこまで激しい運動と言うほどでもなく、また比較的親しい教師から口を酸っぱくして水分と電解質補給を言われていたので、スポーツドリンクを持ち込んで適宜休憩を挟んでいたと言う。
「出来た子だね」
「そうですね」
そして、校舎の二階からこちらを見ている女子生徒に声を掛けたところ、それがテケテケで襲われ、身体のあちこちを噛まれてしまった、と言うことの様だ。
「気持ち悪いなあ。変態じゃん」
ルイが嫌そうな顔をしてから、
「この教室、誰かいなかったの? 僕が高校の時は女の子が残ってお化粧してたりしたけど」
「残ってるときもありましたが、この日は残ってなかったですね。なお校則で化粧は禁止みたいです」
「そうなんだ。最近の高校って厳しいね」
「あたしの高校も化粧禁止だったよ。それでもする子はいるけど」
ナツがつまらなさそうに言う。なお、本人は曰く「化粧なんて冠婚葬祭でしかしない」とのことである。
「やっぱ学校によるのか……」
「あたしの学校、割と素行不良が多くてね。禁止禁止禁止だったよ」
「ほほう。桜木さんは?」
何気なくルイが水を向けると、アサは天井を睨む。僕とそんなに年齢変わらないのに、高校のことなんか忘れちゃったんだろうか。
「まあ、割と先のことを考えない連中が多かったですね」
「あ、そうなの?」
「俺も割とそうでしたけど……」
「意外だなぁ。変なこと聞くけど、モテた?」
「そうでもないですよ。ご覧の性格ですから」
アサが苦笑する。そうかな。僕には優しいけど、なんてことを思っていると、メグが咳払いした。こちらに片目をつむって見せる。ルイも咳払いして話を戻した。
「ごめんごめん。ええっと、教室に誰かいたかどうか。これも確認しないと。ターゲットにされた人にしか見えない怪異なのかもしれないし」
「そうですね。偶然空き教室だったのだとしたら、いつも人が残ってるか、その時だけ残っていなかったのは何故か、とかですね。人がいたのに見えなかったとしたら、ターゲットにしか見えない怪異という事でしょう」
「『地獄に落ちろ』って言うと撃退できるみたいだね」
メグが興味深そうに呟いた。
「よし。安藤さんに連絡して、聴取の段取りつけてもらおう」
ルイは手を叩くとメールソフトを立ち上げて……。
「電話の方が良いか……」
「そうですね……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます