2 卒業式、前日①

***


 初春の夜の訪れはまだ早い。学校を出る頃には、通学路に薄曇りの空が暗く影を落としていた。


 いつも一緒に帰る友人が今日はいない。担任からの放課後の呼び出しは帰宅部の生徒があらかた帰った後もまだ終わらず、結局解放されたのは十七時を回ってからだったから。


 内容は他愛もないこと。最近にわかに流れ出した学内を騒がせる私の噂に関して。


「佐倉、本当ならこの時期にこんなこと言いたくなかったんだがなぁ」


 そう言って肩を叩いた担任を冷めた目で受け流した。


 何か言おうとして、しかし言葉を飲み込んだのは、担任の後ろに立つ先生がじっとこちらを見下ろしていたから。


 切れ長の瞳はともすれば冷たさをにじませる。細いシルバーのフレームに指を当て思案している振りをするその厚顔さに、吐き気を感じるほどの苛つきを覚えた。


 すべての元凶は先生にあるのに、どうして私だけがこんな思いをさせられるのか。


 苛立ちが収まらないままローファーに履き替えると、地面に八つ当たりでもしているかのように乱暴に足を踏み出す。


 早く帰りたい。あの人と同じ空気を吸っていることすら許せない。つい駆け出しそうになるのを必死に堪えながらも歩調は知らず速まった。


 こんな姿を見せたくなかった。苛立ち、悔しさから涙まで滲みかけるこのみっともない姿を。虚勢でもいいから、堂々と胸を張って歩かなければ。


 できる限り無表情を装って駅までの道を歩き電車を待つ。夕方だから少しは多いが田舎のローカル線はそれでも十五分おきにしか来ない。


 今出たばかりだと言うことを知らせる電光掲示板を眺め、やるせないため息をつきながら先生の真意に思いを巡らせる。


 私なんかに分かるはずもない、その思考を組み立てていく。

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