万物是関取〜ワールド・セキトライズ〜

 雲竜山猫騙寺。


 人体の破壊、殺人まで辞さない闇相撲の総本山だ。


 ネットでこの寺のことを知った僕は、すぐに合宿特訓スピードコースにエントリー登録し、受講料を10回払いで支払って、秩父線とタクシーを乗り継いでこの寺まで来た。


「帰りなされ」

「えっ……」


 ペンキブラシのような眉毛の和尚は、僕を見るなりそう言った。


「そなたは身体ができておらん。この寺の修行には耐えられぬ。死にますぞ」

「でももう受講料はらっ」

「死にますぞ。確実に。四回死ぬ。いや、もっと死ぬ」

「構いません!」

「死んでも良いのか? 四回以上じゃぞ?」

「僕には……命を懸ける理由がある。少なくとも前頭クラスの力士20人と同時に戦って、倒せるようにならなくちゃ行けないんです‼︎」

「なにゆえそこまで……理由とは? そなたは何の為に自らの命を懸けるのじゃ?」

「……愛の為に」


 和尚の眉毛が揺れた。


「……いいじゃろう」

「ありがとうございます和尚様!」

「では早速始める」

「えっ! 何を?」

「実戦闇相撲チャプター1。レベル1」


 僕は慌てて当たりを見回すが、この寺には僕と和尚さん以外には誰もいないし、人の気配すらない。


「和尚様と戦うんですか?」

「拙僧も、ある能力を持っていてな」

「能力?」

「その名は万物是関取ワールド・セキトライズ。能力は、あらゆる物体を屈強な関取に変えること……!」


 和尚が手を合わせ激しく念仏を唱える。


 ゴゴゴゴゴ……。


 山が、揺れた。


 雲竜山自体が、大きく動いているのだ。


 そして、僕の目の前でそれは、クソデカい関取へと姿を変えてゆく。


 これが、僕の地獄の特訓の始まりだった。

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