第7話 トシ子(92歳)の場合

 おれぁ、トシ子。

 92歳。

 いまだに現役の猫娘ねこババでの。

 金魚を見るとうずうずすっけど、

 ひざがいてぇからなんともいけん。



 山をヒョイヒョイ跳んでいた

 イリオモテヤマネコのサッチャンは、

 今も元気で生きとるかのぅ?

 ぬるめに入れた緑茶が上手くて、

 腹がくちくまんぷくになってくるわぃ。



 今日も陽気が気持ちエエがな。

 このままポックリいきそうだがのぅ、

 イノー君のまだ見たいんでの。

 しばらくシブトク生きてみるわな。

 


 縁側のついている和風の家は、

 今はなかなか見ませんだ。

 ネコ友達のタマちゃんと、

 今日も日向ぼっこでまったり。



「最近猫娘ねこムスメを見るのぅ。

 お前らネコの警察は、

 今も金魚を狩るんかいなぁ?」



 おれの言葉にタマちゃんが、

 頭を持ち上げ、鼻をスンスン。

 白い毛並みがきれいじゃが、

 ネコにも白髪はあるんかいな?

 


『んあ? なんか言ったかい?』

「タマもほちょーきつけたらエエがな」



 ネコも年をとったらアカンの。

 昔の元気が懐かしいやぃ。

 わけぇ頃はよぅく競争してたんだがなぁ。



 おれの言葉に頭をあげた、

 尻尾が二つのタマちゃんが、

 歯抜けの口をパッカリ開けて、

 ナーンとひとこえ、

 空に投げた。



『最近嫉妬琉金が多いが、人は変わってしまったの。春ならピンポンパール恋する泡玉が飛んだし、秋なら和金食欲と決まってたがの』



 懐かしそうに目を細めながら、

 空を見上げるタマちゃんは、

 昔話を沢山知ってる

 この界隈かいわいの生き字引、よのぅ。



 お茶請ちゃうけに食う、

 煎餅せんべい片手に、

 おれぁ、でかめの声で言ってやったさ。



「今はなんでもそろうかんなぁ。イノー君も、ユーツーブならみほうだいだぁ」



 このせんべいもスマホで注文。

 狩った金魚もスマホで納品。

 こんなババでも小遣い稼ぎは、

 ポチっとヒト押し、便利なモノよ。



 庭のはしっこ漬け物石に、

 金魚のエサをくくっといた。

 そのうち腹をすかせた金魚が、

 かかっていたらもうけモン。



 自由に動けんわしらでも、

 猫娘ネコババやってられるとは。

 時代は変わってしまったが、

 なんと便利になったもんだ。



「そぅいや、タマちゃんお前さん。玄孫ヤシャゴがこないだ出来たってぇ? 長ぁく生きてりゃいいことあるなぁ」

『はぁぁ? いつの話だぃ。こないだ出来た子孫はなぁ、玄孫ヤシャゴ玄孫ヤシャゴ、その子供だよ』



 その子はぶちネコ、野良ネコじゃ。

 よぅけ生きとるさとい子じゃ。

 今はどこかで何しとるのか、

 さっぱりわからん。



「おばーちゃん! お魚れたの連絡来たよ」

 


 茶トラのキョーコは今日も元気で、

 足も尻尾もマルだしで、

 おれから見たら、

 こっちが風邪引きそうで困らぁ。



「和金が一匹かかったからよぅ。たまきんトコに持ってってくれやぁ」



 尻尾をふりふり、

 おれからもらった煎餅せんべい食って、

 わけ猫娘ねこムスメはええの。

 自由気ままでうらやましいわ。



 なんでも出来て、

 どこでも行けて、

 やりたいことが出来るんだからなぁ。



「キョーコちゃんよぅ、あとでわいはい見てくれや。イノー君が止まったままで、全然動かねぇんだょ」

「いーよ。そんじゃ、上がってくからね」



 ミミがピコピコ動いたあとに、

 トタトタ部屋ん中へとあがる。



 おれらは古株カセキ猫娘ねこババだぃ。

 自由に金魚を狩ってはちじゅうねん。

 妖怪みたいに言われてきたが、

 ちゃあんと生きて、

 ちゃあんと死ぬわ。



 いつかそんときが来るまでは、

 大先輩の猫娘ねこババとして、

 大人しくこいつらぁ見守んなくちゃなぁ。



 わけ達にゃあ勝てないが、

 まだまだ気力はみなぎるわぃ。

 すぅすぅ眠ったタマちゃん撫でて、

 おれはキョーコちゃんに頼んだ。



「ついでにお新香シンコきってルンバのちょーし見て食洗機の洗剤して米いで掃除機のゴミ捨てて新聞紙束ねてゴミ集めて糠床ヌカドコかきまわして新しいスマホのケースデコってうぉーたーさーばーの水がからだから変えてくれや」

「ちょっと全部はむりー」








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猫娘―ねこムスメ― 織香 @oruka-yuno

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