第5話アイネの場合
ピンヒール、
履いてくるんじゃなかったわ。
ハントするには、向かないわね。
私はかかとを鳴らしてすねる。
ロシアンブルーの猫娘。
今日は店からご出勤。
ヒラヒラドレスがすうすうするわ。
結った髪も、風にふわふわ。
ゆらゆら揺れる、私の尻尾は
風から私を守ってくれるわ。
でも今は、
そんな事は言ってられない!
泳ぐ音を捕まえてから、
私の耳は、
ぴこぴこ、きょときょと。
大きな
泳いでいるわっ。
あれは美人の夢なのよっ!
目を離さないで、追いかけていく。
つんとすました私の金魚。
優雅に尾ひれをヒラヒラさせて、
高く高くに登って行くわ。
夢でも美人。
うらやましいっ!
ますます、ヒールが疎ましくなるわ。
脱いで、追いかけちゃおうかしら?
「あん! もう大変!
どうして獲ったらいいかしら?」
どれだけ尻尾をパタパタ振っても、
花房全然気づかない。
肉球ぽふぽふ叩いてみても、
全然興味がないみたい。
ペタンとミミ垂れ、
落ち込む私。
それでも諦めないんだからね!
私はヨシ! と気合いを入れたわ!
「欲しいわぁ。
あんな綺麗な花房なんて、
めったにお目にかかれない」
追いかけて、
追い
ジャンプ、
ジャンプで、
屋根の上。
まだまだ、遠く及ばない。
自由気ままな、
夢金魚。
「ホラおいで♪」
私はくるんと後ろを向いて、
尻尾をフリフリ、
ご飯ですよ。
私の元へ、
夢を届けて。
綺麗な女性になりたいの。
ゴハンと間違え寄ってきた、
花房目掛けて大ジャンプ!
ヒラヒラ優雅な尾ひれを捕まえ、
私のハントは大成功!
「うふふ。
腕の中の私の花房、
観念したのか大人しい。
近くで見ると、とっても綺麗で、
見ているだけで、幸せよ。
久々の、金魚
くたびれてしまったわ。
早く店に戻りましょ。
花房の口に
ワイヤー
金魚風船出来上がり♪
ルンルン気分で、
尻尾もふるふる。
今夜は肉球もぽふぽふよ。
な、ハズだったのに!
『おい、猫娘!』
そこにいたのは、ぶちネコちゃん。
ジとっとポッテリマブタを持ち上げ、
私をじっと見ていたわ。
両手を背中にまわしてにっこり、
営業スマイルふりまくの。
「あら、なあに?」
『許可無きハントは禁じられてる。
今すぐ花房、離すんだ!』
「やだん。ネコの警察ね?」
ぶちネコちゃんの前にしゃがんで、
私は両手をそろえて可愛く、
猫なで声でお願いしたの。
「お願い♪ 売ったりしないから」
『そんな問題ではないぞ!』
「私が自分で飼うものよ?」
『違法だから認められん!』
んむぅ。
ぶちちゃんのイジワル。
私はブスッと口を尖らす。
こうなったら!
ペカーっと一本取り出した!
――
ちゃおちゅーる♪
☆ささみ味☆
『んまんまんまんまんま♪』
「うふふ♪ カーワい☆」
ゴロゴロ。
んなんな。
ちゅーるに夢中♪
私は一本、あげちゃった。
ぶちちゃんトロンとご満悦。
……ちょろいわね☆
私はニヤリと笑ったの。
ワイロをもらった警察さんを
その場に残して、
さっさか逃げなくちゃ。
私の綺麗な
可愛い花房
誰にも渡しは
しないんだから。
さぁて、今日も1日頑張ろっと。
私はのびっと手をあげて、
ほほをスリスリ、さすったの。
お店に顔出すその前に、しっかりおヒゲ
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