第15話 エナリオとして
◆
翌日の昼過ぎまで泥のように眠った俺は、午後から父の部屋で事情聴取を受けていた。
「ソーンから話は聞いた」
ベッドに横たわった父が、傍らに座る俺に言う。
「何でも、運良く落雷がドレッドオーガに直撃して撃破できたようだ、と」
「え? あー……はい」
なるほど。そういう感じの解釈に落ち着いたわけだ。
そりゃ〈無能〉の俺が倒したという話よりかはまだ信憑性がある。
「しかし、驚いたぞ。お前が私やソーンたちを護るため、囮になるとは……。
「ありがとうございます」
なんかその戦の神に、俺がなっちゃったらしいです──とは、口が裂けても言えそうにない。
「このドレッドオーガの〈コア〉は、お前が持っていくといい。功には報いを、が騎士の精神だ」
父が視線で示したサイドテーブルの上で、絹の上に安置されたコアが鈍く光を反射していた。
俺は丁寧に一礼した。
正直、こんなもん貰っても使いみちもわからんしどうしようもないんだが……。
「エナリオ。〈ステータス〉はどうなっている?」
「えっ。あ、はい……!」
そういえばステータスの事などすっかり忘れていた。
元の世界でよく観てたアニメなんかのパターンじゃ、ステータスがとんでもない数値になってるやつだ……!
ごまかし方を全力で考えつつ、恐る恐るステータスを呼び出した。
【エナリオ・トリトニア・ガロファノ 〈貴族〉
特性:なし
体力:156
魔力:10
攻:12 防:8
スキル:なし】
(いや結局〈無能〉かい!!)
特性もなきゃスキルも無しのままだ。
あ、体力と魔力がちょっと増えてる。って、どうでもいいわ!!
「すみません、父上。特性、スキルともに以前と同じです……。あ、でも、体力とかは少し上がりました!」
「基礎ステータスが上がったか。確かに、少し
父が満足気に頷く。
「エナリオ。来週から、兄たちと同じように剣の稽古を受けなさい」
「は、はい……!」
剣の稽古ときたものだ。色々と不安だが、断るのも不自然だろう。
俺は父に改めて丁重に礼をしたあと、部屋を辞した。
「リアナ」
「ここに」
スタッ、と天井からメイドが降ってくる。
忍者かお前は。
「ステータスが何も変わってないんだが……。戦神の力っつーのは一夜限りなのか?」
「何をおっしゃいますか。神族とは〈特性〉ではありませんし、神技は〈スキル〉でもありません。魂に秘めたるその力は、人という器のステータスには反映されないのです」
「何言ってるのかよく分からんけど、とりあえず俺は〈無能〉のままということだな」
「まぁ……言いようによっては」
「雑だな!」
「では、力をお試しになるのがよろしいかと」
「ふむ……」
俺は倉庫に向かい転がっていた訓練用の木剣を拾うと、屋敷の裏手の林に出た。
木剣を両手で握る。
構え方なんてまるで分からん……。
我ながらへっぽこな構え方になっているのは分かっているが、この際しかたあるまい。
目を閉じ精神を集中する。
渦巻く力が剣に集まって来るのが分かった。
カッ、と目を開け、真っ直ぐ振りかぶって切り下ろす。
「ハアッ!」
ただの軽い素振りの筈の一閃は莫大なエネルギーとなって木々を薙ぎ倒し、森に真っ直ぐな道を作り上げた。
──ずぅん。
遥か遠くから大地を揺らす低音が返ってくる。
「……お、おいおいおい……」
「さすがエナリオ様。お見事です」
呆然とする俺に、リアナがぱちぱちと拍手を送る。
『なんだ今の音と衝撃は!? モンスターか!?』
『裏手の林の方からだぞ……!』
屋敷が騒然としてくる。
そりゃそうだ。突然、裏の林の地形が変わったんだからな!
「マズいマズい……!!」
俺は呑気に拍手をするリアナの手を引き、慌ててその場から逃げ出した。
こそこそと部屋に戻り、ホッと息をつく。
「あっぶねぇ。気をつけなきゃ……!」
どっと疲れが押し寄せて、ベッドに身体を投げ出した。
「あー、だめだ。眠い」
「まだ、戦神の力に身体が慣れていないのでしょう。お休みください」
「んー。夕飯には起こして……って、何してんの?」
何故かタイツをスルスルと脱ぎだしたリアナを半眼で眺めながら言う。
「添い寝を」
「タイツ脱ぐ必要無いだろ。っていうか、いりません。静かに寝かして」
「は。では」
リアナがパチっと指を鳴らすと部屋のカーテンが一斉に閉まった。
訪れた薄暗さの中、俺は眠りへと急降下していった。
──夢の中で、灰髪の儚げな少年に会った。
「兄さんたちを助けてくれて、ありがとうございます」
少年〈エナリオ〉はそう言ってペコリと頭を下げた。
「いや、俺も勝手に身体を借りた手前、あのままじゃ寝覚めが悪いしな」
「もうその身体は、あなたのものですよ」
言われ、自分の両の手のひらを見下ろす。
10歳にも満たない、小さな手。
「これからは、あなたの好きなように生きて下さい。僕の分まで。出来れば……僕が見れなかった広い世界をその身体で観てくれたら、嬉しいかな」
視線を戻すと、少年はもう姿を消していた。
「……ああ。任せとけ」
俺は、自分の心の中に〈エナリオ〉がスッと溶けて同化していくのを感じた。
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