第14話 目覚めよと呼ぶ声が聞こえ
巨人が、明確な殺意を持って迫る。
俺は獰猛な咆哮を上げながら襲いかかってくるドレッドオーガをぼんやりと見ながら、胸の奥底にエナリオの魂の揺らぎを感じていた。
波のように寄せては返す魂の波動。
海のように深く、
全てを突き動かすような、溢れ出るエネルギーの潮流。
「エナリオじゃない……これは──」
ドレッドオーガの凶悪な拳が眼前に迫る。
その瞬間、俺の中で何かが砕けるような音がした。
──バァン!!
『ウガッ!?』
エネルギーが炸裂する音とともに、ドレッドオーガの巨体が弾き返される。
驚いていると、背後から声が聞こえた。
「間に合ったようですね」
いつの間にかリアナが立っていた。
「リアナ! これはもしかして……」
リアナが俺に向かってひざまずく。
「はい。……お待ちしておりました。戦神ポセイドン──いえ、〈戦神エナリオ〉様」
「……!」
身体の中から信じられない程の力が湧いてくる。
海竜リンドヴルムだった時の俺すら遥かに超える、この力……!
『ウヴォォオォォォ!』
体勢を立て直したドレッドオーガが再び突進してきた。
見上げるような高さから拳を叩きつけてくる。
俺はそれを
衝撃で俺の足を中心に地面が凹む。
片手で握ったピッチフォークの柄でドレッドオーガの腹を横から叩くと、その巨体は紙細工のように吹き飛んで森の木々を薙ぎ倒した。
「リアナ!」
ピッチフォークを投げ捨て、リアナへその手を向ける。
「仰せのままに」
リアナの身体が光に包まれ、その姿を神々しい大槍に変える。
俺の身長の倍以上はゆうにあろう長大な神槍だ。
「ふっ!」
神槍〈トリアイナ〉を手に跳躍。
山の景色が一瞬で足元に遠ざかっていく。
その中に、豆粒のようなドレッドオーガの姿を捉えた。
「これで……どうだッ!」
身体を大きく捻って槍を投擲。
──ゴバッ!
神槍が巨大なエネルギーの塊となって降り注ぐ。
『ガッ──!?』
起こした大爆発が、山の斜面ごとドレッドオーガを蒸発させた。
「うわっと!?」
予想を遥かに上回る威力に煽られながらも、クレーター状になった斜面にふわりと着地。同時に、戻って来た槍を空中で掴む。
「や、やりすぎたか? 加減が大変だぞこりゃ……。ん?」
クレーターの中心に、何か結晶のようなものが光っているのが見えた。
半径百メートルほど、それ以外の物質はすべて蒸発してしまっているので非常に目立つ。
俺はまだ陽炎の立つクレーターを進むと、その結晶を手にとった。
手のひら大で濃い緑色をしている、お世辞にもあまり美しいとは言えない水晶体だ。
「リアナ」
槍を地面に突き立てて呼ぶと、槍が光りに包まれ人間の姿に戻る。
「お疲れ様です」
と、その時、
「エナリオ!」
クレーターの向こうの森の中から兄を先頭に数名の騎士が馬を進めて来るのが見えた。
「兄さん!」
「無事なのか!? こ、これは一体……?」
まだ煙のくすぶるクレーターを恐る恐る進んでくる。
「警戒を
油断なく剣を構える兄に、俺は先程の水晶体を見せた。
「兄上、これを」
「……!? これはモンスターの〈コア〉!?」
「あ、そういった物なんですね。ドレッドオーガの倒れていた場所に落ちていました。なぁ、リアナ──あ、いない」
いつの間にかリアナは姿を消していた。
自由なやつだなオイ。
「ドレッドオーガの……? まさか」
兄に水晶を手渡すと、兄はそれを両手で包んで力を込めた。
すると、渦巻くような波動が結晶から溢れ出した。
後ろの騎士たちも騒然とする。
「ここまで強力なコアは、確かにドレッドオーガの他には……!」
「兄上。とにかく、僕は……疲れました……」
緊張の糸が切れたのか、物凄い疲労感と眠気が急激に押し寄せてきた。
「後は……よろしくお願いします」
「あ、おい、エナリオ! しっかり──」
倒れる俺を慌てて支えてくれた兄の声も、遠ざかる意識の向こうに消えていった。
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