第10話 聖騎士団推薦枠……?
家族全員が集まったテーブルの末席で、俺は刺すような視線を全身で受けていた。
主にリカルドと母からの物だが。
「あー……父上。なんであの
「ヨテフ! エナリオは部屋で食事を摂るわ。膳を運んでやってちょうだい」
母が手を叩いてあの老執事を呼ぶ。
「あ、あの! 今日からは、皆と一緒に食べたいなーなんて……!」
慌てて言う。
あの老執事が運んだ食事なんて食えるわけがないだろう!
「ざけんなよ。せっかくの飯が不味くなるじゃねぇか」
「そうよ! 大体、貴方が一人で食べたいって言い出したことなのに──!」
「リカルド、ローズ。本人の好きにさせてやりなさい」
父が二人をたしなめる。
「そうそう! 嬉しいな。家族全員揃っての食事なんて、何年ぶりだろう!」
ソーンが嬉しそうに言った。
うーん。ほんとにいい兄貴だ。
やり取りのうちに料理が厨房から運ばれてきた。
さすがの母も、全員の前で毒殺することは出来ないだろう。……多分。
いや、待て。もしかしたらそこまでキ●ガイである可能性も──
「お待たせ致しました。毒味の方も万全ですので、安心してお召し上がり下さい」
メイドが言う。
「なら良かった。……え?」
ホッとしながらグラスの水を飲んだところで、メイドの発言のおかしさに気が付く。
「ぶっ……!!」
そのメイドを見て、俺はグラスの水を盛大に吐き出した。
リアナがメイドのコスプレ──もとい、服装で給仕をしているのだ。
「きったねぇ! テメェ、ぶっ殺すぞ!」
「よさんか! おい、拭いてやってくれ」
「御意」
父に命じられたリアナがナプキンで俺の口元をわしわしと拭く。
(おい……! 医者じゃなかったのかよ!?)
(おそばにいられれば、その他は些細なことです)
(答えになってねぇよ!)
(それより、毒は入っておりませんのでご心配なく)
小声で言い合う。
何なんだこの人は。いや、この神族は。
それに、さっきまで医者として来てたやつがメイドをやってるのに、俺以外の人間は誰も違和感を覚えていないようだ。
記憶改変、だっけ? 凄いんだかなんなんだか、とりあえず便利な能力をお持ちで……。
リアナが厨房に戻ると、父の「では、いただこう」という合図で食事が静かに始まった。
「父上。モンスターの討伐、お怪我が無く何よりです」
「うむ」
食後の紅茶を飲みながら言うと、父は無表情で頷いた。
隣のリカルドが露骨な嫌悪感を顔に滲ませる。
「しかし、妙でしたね……」
ソーンが呟いた。
「この辺りにフォレストリザードが現れるなんて。今までありませんでしたよ」
「うむ。生態系の変化か、あるいは他の……。とにかく、対策を練らねばなるまい」
すると、リカルドがカップを片手に鼻で笑った。
「ふん。フォレストリザードの十匹や二十匹、俺の〈重剣士〉の特性で瞬殺してやるよ……!」
「さすがだわリック……! 本当に優秀ね! やっぱり、我が家からの聖騎士団の推薦は貴方に決まりだわ! ねぇ、あなた!」
バカ親ここに極まれり、といった様子で言う母に、
「まだ決める段階では無いよ。
父はあくまで冷静な態度を取った。
「はあ? 三人って……まさか、コイツが入ってるわけじゃないよな!?」
父の発言に、リカルドが唖然として俺を指差した。
「当然、入っている」
リカルドが椅子を蹴飛ばして立ち上がった。
「父上! 冗談が過ぎるぜ! こんな恥晒しの〈無能〉が聖騎士団の推薦候補!?」
当然のようにそれに母が同調した。
「そ、そうよ! この子はまだ幼いし……それに、
おいおいババア。いい加減にしなさい。
魂胆が透けて見えてるって。
「リカルド、母上……!」
見かねたソーンが仲裁に入った。
「聖騎士団への推薦は、騎士道の名の下に公平平等。挑戦する権利を有する者を除外することは出来ないのです。それに、リカルドの実力は折り紙付きだ。母上も心配なさらず……」
なんて出来た男なんだ、ソーンくん。
伊達にこの母親の血が入ってないだけある。
というか、何か勝手に聖騎士団とやらへの挑戦権を与えられてるみたいなんだけど、どゆこと?
この無能力のエナリオにどうしろと?
リカルドの言うこともちょっと分かるぞ。情けないことに。
「ソーンの言う通りだ。エナリオも権利を持っている事を否定は出来ない。この話は以上だ」
父がそう言って席を立つ。
「リック、大丈夫よ。あなたが一番なのはママがよーく知ってるわ」
次いで、リカルドと母が寄り添うようにダイニングを出ていった。
ソーンが席を立ちながら『やれやれ』といった仕草で俺に目配せをする。
「兄さん。ありがとう」
「あの一件があったからかな? 何だか、すごく変わったな。いい意味で」
「そうかな……。一緒だよ」
複雑な気持ちで答える。
「前のエナリオと違う『何かやりそう』な雰囲気って言うのかな……。もしかしたら、聖騎士団の推薦、頑張ってみる価値はあるかもな」
「やめてよ」
俺が冗談めかして笑うと、
「ホントだよ。今度、剣教えてやろうか?」
ソーン兄は爽やかな笑顔を残して立ち去っていった。
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