雪に閉じ 03
水の輪をくぐりぬけた先は、ドーム状の石室だった。
悪夢の回廊に入る前に訪れた石室と同じで、中央には不思議な泉がある。
もどってきてしまったのかと、ラトスは思った。
泉の前に立っている人間も、真っ白で長い髭を蓄えた老人だった。老人は、水の輪から飛びだしてきたラトスとメリーに顔も向けない。泉に向かって腕を伸ばしたまま身動きひとつせず、声ひとつあげなかった。
遅れて、ペルゥが水の輪から飛びだしてきた。
ペルゥはすぐにメリーの姿を探して、彼女の肩の上に飛び乗った。メリーの頭に白い身体をすりつけながら、猫のような声をあげて甘えた仕草をする。
明らかにあざといその仕草に、ラトスは片眉をあげて苦笑いをした。だがメリーは、ペルゥの仕草のすべてが可愛くて仕方ないらしい。何度も見た光景だが、メリーとペルゥのじゃれあいは、今後も理解できないだろうとラトスは思った。
最後に、セウラザが水の輪から飛びだしてくる。
彼は泉を囲っている石の淵に足をかけると、泉の前にいる老人に声をかけた。老人はわずかにうなずいて、伸ばしていた腕をゆっくりと引く。同時に、水の輪が水の球体にもどっていった。老人が腕をだらりと垂らすと、水の球体は泉の中に沈んでいった。
水の輪が消えるまでを確認して、セウラザは老人に一礼する。ひるがえって、先に到着していたラトスとメリーのもとに歩み寄った。
「ここは、悪夢の回廊に入る前に来たところに似ているが……ちゃんと辿り着いているのか?」
ラトスは辺りを見回しながら、セウラザにたずねる。
セウラザは問題ないと即答し、うなずいてみせた。
「同じ場所ではあるが、辿り着いた先は違う。問題なく、王女の夢の世界に行けるだろう」
謎かけのような返事をしたセウラザに、ラトスとメリーは同時に首をかしげた。
少しの間を置いて、ラトスとメリーは首をかしげながらお互い顔をあわせる。セウラザの言葉の意味が、全く分からなかったからだ。メリーは考えることを途中で放棄したらしい。口の両端を持ちあげたまま、顔が固まっていた。
「いや。そうか。間違いないなら構わない」
考えることを放棄したメリーよりは長く考えてみたが、結局ラトスにも分からなかった。
セウラザもペルゥも、特に追加で説明してくる様子はない。夢の世界では常識なのだろう。ラトスは面倒になり、言葉の意味を考えるのはやめた。
「ボクが説明する?」
「いや。やめてくれ。混乱が増すだけだ」
「あっははー! ひどい。ひどいよー。ボクは傷付いたよー」
明るい笑い声をあげて、ペルゥは宙でごろごろと転げ回る。
その様子を見ながらラトスは小さく息をつくと、ドーム状の石室をぐるりと見回した。
石室の壁際には、黒い柱が一本建っていた。
転送石なのだろうと思い、ラトスが柱に近付いていく。二人と一匹も彼の後につづき、黒い柱の周りに集まった。
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