影 07

 セウラザと「会えるようになっている」とは、どういうことだろうか。

 この場所も不思議な世界の延長なら、何か特別な力で惹きあうようになっていると考えるべきだろうか。それならば、今は気になるところへと足を向けつづけるしかない。


 ラトスは巨大な穴を横目に、今までとおってきた大通りと、それ以外の場所をゆっくりと見回した。

 今までとおってきたところは、多少妙なところではある。だが、見知ったエイスの中央区画と、大差はない。心惹かれることも特にはなかった。


 巨大な穴の向こう岸は、どうか。

 ラトスは、目をほそめて見回してみた。そこにはやはり、街が広がっているようだった。しかし、エイスの城下街とは少し毛色が違うようにも見えた。はなれているのではっきりとは見えないが、少なくとも東西南北に伸びているはずのエイスの大通りは、巨大な穴の向こう岸には伸びていないようだった。


 毛色の違うその街は、ところどころ暗くなっていた。高い城壁の影が、広くおおっているわけではない。不自然な暗さが、まばらに存在していた。夕暮れのように薄暗いところもあれば、深夜のように真っ暗なところもあった。


 ラトスが、巨大な穴の向こうの街を観察していると、遠くから、メリーの声が聞こえてきた。

 お喋りに区切りが付いたのだろうか。目を向けると、メリーがこちらに向かって手をふっていた。


「終わったのか?」

「はい! ありがとうございます、ラトスさん!」


 メリーは、深々とお辞儀をする。

 気にするなとラトスが言うと、メリーは顔だけをあげて、とても嬉しそうに笑った。


 出会った時からそうだったが、メリーはずいぶんと激しく一喜一憂する。ここがエイスの国ではないと分かってひどく落ち込んでも、試しにペルゥと話す機会を作ってみたら何事もなかったように元気になるのだ。扱いやすいと言えばそれまでだが、すぐに立ち直ってくれるのは、実にありがたい。


「穴の向こうにも、街があるんだ」


 ラトスは、巨大な穴の向こう岸を指差しながら言った。まずはそこまで行ってみようと言い加えると、メリーはラトスが指差した先をじっと見てうなずいた。


「向こう岸は、少し変わってますね」

「そうだな。この辺りよりも変わっているかもしれないな」

「これ以上ですか? うーん?」

「とりあえず行ってみよう。ペルゥもそのうちに会えると言っていたからな。気になったところへ行ってみようじゃないか」

「そうですね! ペルゥに従いましょう!」


 メリーは深くうなずくと、手首にはめてある銀色の腕輪をながめて、もう一度小さくうなずいた。

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