風が呼び 12
「これは珍しいお客さんだー!」
草をかき分ける音がしていた方向から、子供のような声が聞こえた。
二人は辺りを見回したが、草原には人影ひとつ無かった。
「ここだよ! ここ!」
子供のような声は、先ほどより近付いているようだった。なにやら、足元から聞こえる気がする。ラトスは、訝し気に見下ろした。そこには、人間はいなかった。代わりに、真っ白な、猫のような姿をした奇妙な獣がいた。二人はお互いに顔を見合わせて、何度もまたたきをする。
「あっははー! いい反応!」
猫のような獣は、まるで人間のように口を動かしてしゃべっていた。可愛らしい口を大きくあけ、笑っている。
猫のような獣は、翼も生えていないのにフワリと宙に浮きあがった。二人の顔の高さまで浮き上がる。ラトスは、気味が悪いと思って、頭を後ろに引いた。それが面白かったのか、猫のような獣は楽しそうに笑う。そして、草原に吹く風に合わせて、フワフワと宙をただよいだした。
二人の目線の高さで宙をただよっている猫のような獣は、普通の猫より少し小さく、長い尻尾が三つ生えていた。三つの尻尾は風になびくようにしてふわふわと上下していた。
「かわいい……」
メリーが、小さく声をこぼした。
猫のような獣を目で追いかけながら、彼女は表情を輝かせた。その様子を隣で見たラトスは、にがい顔をした。人間のようにしゃべっている獣を、可愛いと思えるのだろうか。どちらかと言えば、気味が悪い生き物の類だ。
メリーは本当に、これが可愛いのだろうか?
「可愛い? ボクのこと?」
猫のような獣は、メリーのほうを見ると、空中でぴょんと飛び跳ねた。嬉しかったのか、草原の上を飛び回りはじめる。そして、彼女の胸の前に飛んでくると、小さな前足を上下に動かしてみせた。まるで、さわってと言わんばかりだ。
獣の挙動に、彼女は身体を小さくふるわせた。
ヒョコヒョコと動く前足を指でつつきながら、満面の笑みを浮かべている。
「そう! あなたのこと!」
「ホントかい? うれしいなー!」
「ああ! なにこれ、夢みたい! ねえ、ラトスさん?」
どうしてか、意気投合したようだ。メリーと猫のような獣はハイタッチをして、ラトスのほうをふり向いた。子供のようにはしゃいでいるので、ラトスはにが笑いをする。求められた同意も、頭を横にふって断った。
しばらく、メリーと猫のような獣は、はしゃぎつづけた。
そのうちに、猫のような獣は、勢いよくメリーの前から飛び上がった。二人から距離を取って、目線の高さでフワリと浮かぶ。そして、小さな体で仰々しくかしこまると、自身のことをペルゥと名乗った。
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