風が呼び 11

 だが、幻想的というだけでは、済ませられないこともあった。

 それこそが、メリーが驚いて、最初に指差したものだった。ラトスもそれを見た瞬間、目と口を大きく開けることしかできなかった。


 空に、山のように巨大な岩が、浮かび上がっていたのだ。


 それはひとつだけではない。

 いくらかの間隔をあけて、巨大な岩山が無数に浮かび上がっていた。岩山の大きさや形はそれぞれ異なっていた。どの岩山も、よく見ると、ゆっくりと上下している。目の錯覚で、浮かんでいるように見える、というわけではないようだった。


 二人はしばらくの間、その景色をながめていた。

 時間が経てば経つほど、言葉が出なくなった。先ほどまでさわいでいたメリーも、静かになっている。現実的ではない光景を見て、目も口も大きく開けたままだ。



 ふと、遠くのほうで、いびつな形をした岩山が、ゆっくりと上昇していた。

 いびつな岩山は、徐々に高度を上げているようだった。そのうちに、周りの、どの岩山よりも高く昇っていく。上昇の速度はゆるまらず、そのまま空に飛んでいった。

 やがて、いびつな岩山は、見えなくなり、空に溶けた。


 またしばらくながめていると、別の場所で、小さな丸い岩が草原の中から生まれた。

 わずかに大地が盛り上がり、ふわりと浮かび上がる。


 盛り上がった大地には、小さな塔があった。よく見ると、浮かんでいるすべての巨大な岩山の真下には、小さな丘があるようだった。そして、どの丘の頂上にも、小さな円錐状の塔が建っていた。


「夢でも見ているのか」


 ラトスは小さく声をこぼした。隣にいたメリーも小さくうなずいた。全部夢かもしれないですねと言って、口を開けながら、無数に浮いている巨大な岩山をながめていた。


 すると、すぐ近くで、草原をかき分ける音がした。

 それは、風が草原をなでる音とは違った。不規則に音をたてながら、ゆっくりと二人に近付いてきていた。メリーが一歩後ろに下がって、草が鳴る方向を見る。ラトスは、腰の短剣に手をかけた。上体を下げながら、草が鳴る方向をにらむ。

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