森の底 11

 それはあまりに不思議な光景だった。

 メリーの口元に近い地面が、強く光りだしていたのだ。先ほどまでの淡い光ではなく、明らかに強く、青白い光をはなっていた。


 光は少しずつ広がって、メリーの足元全体をつつむほどになった。ラトスは驚いて、跳ねるようにして光からはなれた。やがて光は、少しずつ浮き上がり、彼女の身体をゆっくりとつつみはじめた。


「ラトスさん!これ、どうすれば!」

「……成功、したみたいだな」

「成功って、そんな冷静に――」


 メリーは、自身の身体をつつむ光が強くなっていくことに焦りだす。腕をふったり、衣服をたたいたりした。しかし、特に効果はないようだった。光はしっかりとメリーの身体をとらえていて、さらに強く輝きだした。


 ラトスはメリーに、王女の時と同じ現象かどうかたずねる。

 彼女は慌てながらも、頭を何度も上下にふった。


「俺も後に続くつもりだ。心配するな」

「本当ですか!?」

「……たぶん」

「たぶんって、ちょ……っと……」


 メリーの声が途切れる。

 彼女の身体は完全に光におおわれ、見えなくなっていた。あまりの眩しさにラトスは両腕で顔をおおった。やがて光は、何かに吸い込まれるようにして消えていった。


 メリーをつつんでいた光が消えるのと同時に、彼女の足元で光っていた地面も後を追うように輝きを失っていく。ついにそこには、光をはなっているものは一粒も無くなった。綺麗な円状の、真っ暗な地面だけができあがっていた。それは、メリーが最初に案内した、王女が消えたらしい場所と同じで、まるで大きな穴が地面に開いているかのようだった。


 その穴に吸い込まれたかのように、メリーの姿は消えていた。

 少し前までさわがしく叫んでいた彼女の声も、森の中にすっかり溶けて、消えていた。


 ラトスだけが、夜の森の中に残っていた。

 おそらく誰もいないだろうとは思ったが、念のため意識を集中させて周囲を警戒してみる。しかし、やはり人の気配は感じられなかった。



 ここにきて、ラトスは現実的な考え方をするのはあきらめた。

 どういうカラクリかは分からないが、おそらく地面にある光る砂粒が、合言葉に反応しているのだろう。そして謎の発光現象が起こると、合言葉を言った者と共に光もどこかに消えていってしまう。


 ラトスは、光が強い別の地面を探すと、その上に立って小さく息をついた。

 膝と手をつき、顔を地面に近付ける。


 本当に大丈夫だろうか。


 少し考えたが、すぐに頭を横にふった。

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