We Love りゅうたん!


 さて、状況を説明しよう。小説というものは甚だ面倒なもので、書かないと何ものだから。

 呼び出し。東、瞳は碧。伊吹いぶきの君。西、瞳は銀。銀麗ぎんれいの君。両者睨み合って、見据える先にあるは——可愛い可愛い歳下おとうとこと、りゅうたんである——!

 この「だあだあ」言っている歳下ベビちゃんは知る由もない。彼のために、血で血を洗う争い、……もとい、涙で涙を洗う仁義なき争いがあったことを。


 細工は流々、仕上げをとくとご覧じろ。いざ、尋常に勝負。はっけよーい、

「「りゅうたん! こっちに来い!」」

 さあ、始まりました、この競技。日頃、どれだけ心の対話ができているかが、勝因に直結する……わけでもない点がスリリング。赤ちゃんの無垢さを逆手にとった、残酷、残忍な競技です。一体どちらに、勝利の女神は微笑むのか!

 晴天。風速一メートル、風向きは南南東。天候は良好です。さあ、生後六ヶ月(※筆者独自換算)りゅうたん、四つん這いの構え。畳の目をじっと見つめています。眠いか、これは眠いか……!? 両選手、神妙な面持ちで眺めています。しかし、伊吹選手の表情は硬い……おおっと、りゅうたんついに動き出しました! 顔を上げました。可愛いです。目が大きいですねぇ。おっと、きょろきょろと見回しているようで……、

 ……こ、れ、は、あッー! りゅうたん、一直線ッツ! 迷いがない! 進む、進む、進んだッツーー!


「りゅうたん、髪の毛は食べてはいけないよ」

 銀麗は、小さな温もりをその腕に抱く。霧生きりゅうの曇りのない赤い瞳がきゃっきゃと笑った。

 対面に座っていた伊吹は顔を真っ赤にして、どたどたと銀麗に駆け寄った。

「なんでだ!! なんで、りゅうたんは俺のところに来ない! いっつも、いっつも、ギンのところに行く!」

 立会人、もとい乳飲み子の世話係を務める蜜黄みつきは笑んだ。霧生の芋虫みたいな小さい指に絡んだ銀麗の髪。彼女は「だーめ」と、それを払い落とす。

「ギンちゃんの髪の色が気に入ったみたいね」

「りゅうたん、俺の髪を食べていいぞ! ほら、ほら!」

「伊吹までやめて。汚いんだから、口に入れさせないでちょうだい」

「やっー!! おーれーもー!! ゆうだん、だっごじだいいーー!!」

 伊吹の体はきゃんきゃん鳴る。甲高い悲鳴が、けたたましく社中に響き渡った。

「ゆうだん、だっごじだがっだのにーー!! うわあああ!!」

 この後、驚いた霧生もギャン泣きするまでが競技。どうにも収集がつかなくなった後の始末は、蜜黄に丸投げという寸法である。もちろん、この競技は次代に継がれることなく、お蔵入りすることとなった。


 しかし、この数年後、今度は初めての歳下いもうとが生まれることになると、後はご想像のとおり。歳上あに花よと可愛がられた胡蝶こちょうだったが、後に聞くところ「あのときは鬱陶しかった」とな。

 さて、りゅうたんこと——霧生も今となっては、山犬一の剣豪だ。え? 本編に出てきてもいないのにわかるもんかって? いやいや、弟子を見れば、自ずと師の器も測れるというもの。一騎当千、『オニ』を屠る姿は獅子の如しと褒めそやされた揺翅ユルギの英雄——朱鷺ときを鍛え上げた師名とは、まさにこのりゅうたんである。

 ともあれ胡蝶は俺の嫁(困ったことに、間違いではない。紅丸べにまるは正真正銘二人の子である)、同担拒否過激派のちょっと残念な男——りゅうたんが活躍するのは、残念ながらかなり先のお話。……胡蝶様、逃げるなら今のうちですよ。



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