第6話 覚醒

 目が覚めると、私は日本へ向かう機内の席にいた。海外旅行を終え、数時間後に成田空港へ着くところだったのだ。前方のスクリーンでは、ノートルダム大聖堂で火災があり、建物にある鳥の像が消失したと報道している。私は夢うつつの状態で、着陸まで目を閉じて過ごした。

 帰国して一週間後、県内にあるハシビロコウのいる動物園に行くと、その前日にハシビロコウが行方不明になったことが分かった。私はノートルダム大聖堂での記憶が、夢なのか現実なのかうまく区別できなくなっていた。

 それから動物園の帰りに、いつもは通らない森を通って歩くと、突然頭上を大きな黒い影が過ぎ去った。ドサリと音がして、地上に黄色い着物が落ちている。よく見てみると、その全体に緑色のシミのようなものが見えた。

 やがてどこかで見たような、髪の長い若い女が近づいて来て、その着物を拾い身にまとい始めた。私は話のできるハシビロコウを、知っているか尋ねてみたくなった。だが近くにいた、着物姿に変わった女は、音もなく燃えだしすぐに煙となった。

 静謐さに包まれた森の中で、その場所には白い灰が土の上を覆っている。私は上空から、恩恵の印みたいな日の光が差すまでの間、そこへ立ち尽くしていたのだった。

 そして消防車のサイレンの音が聞こえ始め、大勢の防火服を着た男達が私の方へ走り出して来た。

「おーい、あそこに探していた鳥がいるぞ」

 先頭を走っている男が私を指さして、後方の仲間に伝えていたが、私の近くにはどんな生き物も見えなかった。

 やがて、自分の体が軽やかに感じると、両腕は羽に覆われ口元から大きなくちばしが突き出していた。私は小枝のように、細くなってしまった足でその場から逃げようとした。

 それから、空へ吸い込まれるように自分が飛翔していることに気がついたのだ。地上では男達が、一箇所に集まり私を見上げている。だんだんその姿が、小さくなっていって、粒のようになるまで私は羽ばたいていた。やがて私と同じような鳥が群れとなり、西側へ猛スピードで私を飛び越えていくと、何発もの大砲の轟く音が聞こえた。

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旅の行方 黒部雷太郎 @bookmake

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