第5話 決戦の日

 戦い当日の夜中、私は車で迎えに来た男のガイドに連れられ、ノートルダム大聖堂へ行った。闇に包まれた荘厳なその建物は、静止した超巨大な地球外生物みたいに見えた。私は男のガイドの指示通り、緑色の液体の入ったペットボトルを持って、普段は使用されていない入口から大聖堂の中へ入った。

 私が懐中電灯で明かりをつけると、足元には何体もの頭骸骨が転がっている。震える足で歩き、ハシビロコウを探したが見つけることはできなかった。

 やがて、室内全体に明かりがつくと、私は赤い顔に赤い髪で大きな鼻の少女姿の妖怪に取り囲まれていた。腕時計はブルブルと震え、次第にその振動が大きくなっていく。私がペットボトルのふたを開けて緑色の液体を口に含み、周囲の妖怪に吐きかけようとすると、前方の祭壇に光に包まれたハシビロコウが現れた。

―ちょっと待てよ、そいつらは偽の妖怪だ。液体はに吐きかけろ!―

 鳥の声が響き、私は腕時計が偽者の付近で振動することを思い出した。

「どこにいるんだは!」

 祭壇の後方から、ハシビロコウに噛みつこうとしている一体の妖怪が見えた。そして、大勢の妖怪を蹴散らしながら、私はなんとかその場を抜け出した。

 ようやく祭壇に駆け寄り、私が妖怪に液体を吐きかけた時、ハシビロコウは首筋を噛みつかれていた。だが妖怪が硬直してしまうと、ハシビロコウはくちばしで相手のうなじ部分を突き刺し、その着物からオレンジ色の炎が燃え出している。そして周囲は硝煙の臭いに覆われていったのだ。

 私は迫りくる煙を吸い込み咳き込みだした。やがて呼吸がほとんどできないほどの、酸欠状態に陥り視界がぼやけていったのだ。

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