第4話 戦いの準備

 ハシビロコウは五日後に、ノートルダム大聖堂で妖怪と戦うことを打ち明けた。

―おいらここで戦いの当日まで、攻撃力を上げる必要があるから、あんたは先にフランスへ入国してくれ―

「どんな交通手段で、ここからフランスへ行くんだ?」

―心配ない、もう手配は済んでいる。一度日本へ帰国してから、飛行機でシャルルドゴール空港へ行ける。

「それから先のことはどうすればいいんだよ!」

―現地にあんたの面倒を見る、ガイドが一人いるからその人に従ってくれ―

「分かった。俺も君が来たら、参戦できるんだな」

―ああ、あんたの協力が必要なんだ。危険を背負わせてしまって、申し訳ないが・・・・・・―

「俺は何をすればいいんだ」

―妖怪のおとりになってくれ―

「俺は妖怪を引き寄せればいいのか?」

―そうしてくれ。ノートルダム大聖堂の中で俺と知り合いの人間がいたら、そいつは必ずその人間に近づいて来るんだ―

「赤い顔に赤い髪で大きな鼻をしているんだよな」

―そうなんだ。黄色い着物を着ていて、少女の姿で噛みつきに来る―

「そんなことをする奴のおとりになるなんて・・・・・・」

―妖怪が手の届く位置まで来たら、それをそいつの顔に吐きかけてくれ―

 ハシビロコウは、ペットボトルをくちばしにくわえて私の横へ置いた。その中には緑色の液体が入っている。

「なんだこれ?青汁みたいだな」

 私はペットボトルのふたを開け、その液体を揺さぶってみた。緑色の中身はきらきらと輝きを放っている。

―それがまともに相手の顔にかかれば、そいつの体は数秒間だけ麻痺状態になる―

「その隙にあんたが妖怪を攻撃してくれるのか?」

―そうするよ―

「もし、俺が妖怪の顔に上手く液体をかけられなかったらどうなるんだ」

―重傷を負う可能性がある。戦いについては覚悟をしてくれ―

「もう、引き返せない状況なんだろ」

 私はまだ見ぬ相手に言い知れぬ不安を感じた。

―放っておけば、奴は何体もに増殖して世界中に犠牲者が出る―

 その後、私とハシビロコウは、フランスで再会する約束をした。

 やがて、店の前に鳥の妖精が手配したというタクシーが来て、私は一人それに乗車することになる。運転手は私を北京空港まで送り届けた。

「航空券などはそこに入っています」

 彼は黒いファイルを手渡してきた。そこには、一時間後に出発する、日本行きの航空機の搭乗に必要な物が入っている。

 私は予定時刻通り、北京空港から指定された機内に入り、一度日本へ戻ることとなったのだ。成田空港に着くとニュースで、妖怪が増殖し始め、日本でも初めての犠牲者が出たと報道していた。

 その日は、成田空港近くのホテルに一泊し、翌朝フランスへ向かうことが決められていた。私はあまり寝付けずに過ごし、夜が明けるとホテルを出て始発の電車で成田空港に入った。

 出国手続き後、手荷物検査場で見覚えのある男がいた。偽物を見分ける腕時計を没収した、坊主頭の検査係の男が、また私の検査を担当することになったのだ。

 今回は何事もなく検査を終え、機内へ進もうとするとその男が駆け寄ってきて、私を呼び止めた。

「本当は持ち込み禁止ですが、これをお返しします」

 彼は以前私の所持していた、偽者を見分ける腕時計を手渡してきたのだった。日本ではいつの間にか一部の空港関係者に、フランスで私が妖怪と戦うことを知られていた。またその腕時計は、妖怪を倒すために必要になるとのことだった。

 それから、十六時間近くかかり私はシャルルドゴール空港に到着した。教えられていた通りそこでは、案内役のガイドが私を出迎えてくれたのだ。背の高いスーツ姿のガイドの男は、私を車に乗せパリまで運転した。

「ここが戦いの前までの間、あなたの過ごす場所です」

 彼は車を、シャンゼリゼ通り付近にあるスーツ店の前で停めた。

「その戦いはいつなんだ」

「三日後の夜中です」

 スーツ店の中にある私が滞在する部屋は、ビジネスホテルのシングルルームのようだった。また、妖怪が私のにおいを嗅ぎつける可能性があるため、外へ出ることは禁じられた。そして店主の若い男が、食料など生活に必要な物を、運んでくれることとなったのだ。

 私が室内で暮らす間も、妖怪が増殖し続け、負傷者と死者は世界中で一億人を超えている。店主の若い男は、増殖した妖怪を全滅させるには、だけを倒せば済むのだと教えてくれた。


 

 



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