20人の力士と1人のおかみ

あきかん

第1話

 かつてこの地区を支配していた伝説のチームがあった。だが、MUGENの支配に屈することなく互角に渡り合った兄弟がいた。しかし、勝負の決着がつかぬまま、突如MUGENは解散。雨宮兄弟も姿を消した。

 その後、5つのチームが頭角を表し、各々がにらみ合いながらギリギリの均衡を保っていた。




 亞良川部屋には最も過酷な荒行がある。川の水嵩が上がる梅雨の時期、亞良川に入水し耐え続けるというものだ。

 今年もまたこの荒行の季節がやって来た。亞良川へ20人の力士が入る。それと時を同じくして橋から30代とおぼしき女性が身を投げた。

「女が身を投げたぞ!」

「誰か助けてあげて!」

 それを見ていた住人達が声をあげる。彼女を救えるのは力士達だけだ。


 亞良川の濁流はすぐさまその女性を呑み込んだ。20人の力士達は中腹へと駆ける。

 先頭を走った力士が女性と相対した。濁流に逆らい踏ん張る力士。それとは逆に流れに身を任せた女性。この状況では体重差はないに等しい。

「どすこい!!」

 女性は力士をかち上げた。濁流の力を得た女性のかち上げは力士の腰を浮かす。かち上げを食らった力士は濁流の力に負け流される。

 これ以降の力士達も女性のぶちかまし等に耐えきれず流されていく。最後に残ったのは、亞良川部屋唯一の幕内力士、荒勢川。濁流を物ともしないその立ち姿は神の依代と遜色ない。

「どすこい!!!!」

 荒勢川は雲龍型。その絶対不落の構えで迎え撃つ。荒ぶる川の化身と化した女性は荒勢川をぶちかます。だが、荒勢川はそれに耐える。

 荒勢川は勢いの止まった女性を掴もうとした。しかし、女性は腕を差し荒勢川を投げ飛ばした。荒勢川の体は川面を飛び出し宙を舞った。

 川に身を投げた女性は全ての力士を倒すと濁流の中で立ち上がった。そして、そのまま歩いて川を出る。それから少し時間をおいて、倒された力士達も川辺へとたどり着く。その後、20人の力士とその女性は亞良川部屋へと帰っていった。


「情けねえな、お前ら!川に溺れた女性1人も助けられないのかい。」

 川に身を投げた女性、亞良川部屋女将が吠える。

「どすこい…」

 力士達は荒行で精根尽き果てており返事が弱い。

「情けないねえ。良し。」

 女将が力士達を睨み付けいい放つ。

「稽古つけよおじゃねえか!」

 亞良川部屋の最も過酷な荒行はまだ始まったばかりだった。

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20人の力士と1人のおかみ あきかん @Gomibako

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