起死回生の一撃

 硝煙の臭いと、もはや砲撃に匹敵する火力によってもたらされた爆発。しかしその中において、マミは立っていた。左腕からは鮮血が滴り、使い物にならないということは誰の目から見ても明らかであった。

「まだ立つか……」

 アインは死にかけの動物を見るかのような目でマミを見る。憐みのこもった、それでいて自らの勝利を確信している強い芯もその視線にはこもっていた。

 その傍らでツヴァイがあくびをする。彼女に至ってはもう興味すらないようだった。

(万事休す……か)

 左腕には感覚もなく、魔力の充填も十分とは言い難い。それにもしあと一撃を加えられたとしても、ツヴァイに防がれてしまい今度こそ木っ端みじんにされてしまうだろう。

 絶望的状況。反撃の術はない。

「次で終わらせる」

 ゆっくりとアインが構える。その動作には余裕が感じられる。

 マミは目を瞑ると、最期の時を待った。せめて、一思いに……

 薄暗くなる視界の中、その時を待ったが先に聞こえてきたのは銃声ではなかった。

「くっ……停電?」

 明らかに動揺するアインの声。辺りが薄暗くなったのは意識が遠のいたからではない。ただ単純に明りが消えていたのだ。

「ツヴァイ!電源を復旧させろ!」

「はい、お姉さま!」

 叫ぶアインに駆け出すツヴァイ。マミからはその動きがはっきりと見える。

「マミ、無事か!」

 マミの耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。扉を見る。そこには逃げたはずのシゲルが立っていた。

「どうして……?」

 彼はマミを見つけ、駆け寄ってくる。だがアインとツヴァイは気にする様子を見せない。

「それは後だ!こいつらは暗闇では目が利かない。だから今のうちに逃げる……」

「いや、ここで決着をつけます」

「え?」

 困惑するシゲル。だらりとぶら下がった左腕からはまだ血が流れていた。

「こんな手負いの状態で戦えるわけない!だから……」

 しかし彼女の視線の先はシゲルではなかった。

「クソ……逃げられてしまうぞ」

「いや、逃げない!」

 焦りを口に出したアインにマミは叫んだ。右手からは刀を降ろし、満身の力を拳に込める。

「何を馬鹿な。少しでも長生きできる方に賭けてみないの……」

 ナイフのように鋭い眼差しでアインを見据える。そうして腰を低くし構えると、矢のごとく飛び出した。

「ぐおっっっ!」

 音よりも速く、拳がアインの腹部にめり込む。衝撃波が遅れてやって来た。アインは驚く暇さえなく吹っ飛ばされると、そのまま壁に叩きつけられた。

「お姉さま!」

 壁沿いにいたツヴァイが呼びかけるが、アインからの返事はない。代わりに送られてきたのはマミからの視線であった。

「くっ!どこに……」

 ツヴァイも壁に背を当て、臨戦態勢に入る。が、その視線は定まっておらず、見えない敵への恐怖が露わになっていた。

 そうしている間にもマミは次の攻撃への体勢に入る。先ほどの戦闘での傷口が痛むが、気にしている場合ではない。荒い息を整えると、彼女は再び飛び出した。

「なっ、防御術し……」

 ツヴァイがマミの動きに気が付いたときには既に勝負は決していた。彼女の術式が展開されるよりも先に、拳は腹部を捉えていた。

「がはっ……」

 マミの攻撃をまともに受けた体は、壁に大きなクレーターを作り出す。そうして空気を切る音が遅れてやって来た。

 ツヴァイもその場に倒れる。口からよだれを流しながら横になるその様は、生きているのか死んでいるのかさえ分からない。

 マミは二人が完全に停止したのを確認すると、安堵からかその場に倒れこんだ。

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