第三十七号特別指令

 何もない、ただただ横幅の広い道を歩き続ける。体感的には一回目よりも進んでいると思うのだが。

「さすがにそろそろ第一シェルターが見えてきてもいいんじゃ……」

 そう思った矢先、奥の方に入ってきたのとよく似た扉を見つけた。間違いない、第一シェルターだろう。

 小走りになって駆け寄り、ドアノブを捻る。大丈夫、通れそうだ。

「この先に、アイン達がいるんですね……」

「おそらく」

 本当にいるのかどうかについては確証が持てない。そして彼女たち自体あまり友好的じゃないことも何となく分かる。最悪望まない衝突だってありえる。

 しかしここで引き返すわけにはいかない。ドアノブを強く握りしめると、ゆっくりと扉を開けた。

「……ってあれ?」

 覚悟して開けた割に、中は第二シェルターと同じただ広い空間が広がっているだけだった。

「やっぱり何もなかっ……」

 そう安堵した瞬間、まばゆい光が辺りを照らす。これには覚えがある。

「ほう、どうやら到着したようだな」

 透き通った少女の声が響く。それに人影が二つ。

「へえ、殺されなかったんだ」

 そしてよく似た声だが、こちらは人を舐め腐ったようなものを感じる。間違いない。

「やはりここにいたのか」

「こちらこそやはりここに来たか、と……」

 アインが腕を組み、こちらを睨む。少女とはいえその眼光には威圧感があった。

「それにしてもドライは貴様を殺さなかったようだな。やはり同族同士の情けというやつか?」

 そう言えば何故彼女だけゲルマニア人ではなく、瑞穂国の人間と同じなのだろうか?ふと疑問におもったが、今はそれどことではなさそうだ。

「てっきり記憶が戻ったらそいつの首を持ってこちらに来ると思っていたが、どうやら人格は上書きされてしまうようだな」

 アインはそう言って興味深そうにマミを見つめる。ツヴァイは帽子から垂れた長い金髪をいじっている。

 アインはさらに続ける。

「で、何が目的なんだ?ドライ」

 ドライ、つまりマミのことだろう。

「第六シェルターを目指しているのです」

「第六シェルター?何故そんなところに向かう」

 会話はさらに続く。マミは本当のことを話すのだろうか?

「その前にあなた達の目的を聞かせてください」

「ほう、そうきたか」

 アインは帽子を脱ぐと、頭に手を乗せる。見た目は少女といえ、そのしぐさは軍人そのものである。

「まあいい。こちらが教えないというのも不公平だからな」

「本当に教えますの、お姉さま?」

「構わん。それにいつかは分かることだからな。知るのが少し早まったに過ぎん」

 そしてアインは再び帽子をかぶった。

「我々は今、帝国からの第三十七号特別指令に基づいて行動している。それは機密保護のため、全稼働戦闘用機械人形の破壊である。つまりドライ、君にはここで我々と死んでもらいたい」

 そう淡々と言い放つ彼女。しかしその中身については大きな爆弾を抱えていた。

「これでこちら側は目的を……」

「ちょっと待ってくれ!」

 反射的に声を上げる。アインは気に障ったようでこちらをさらに鋭く睨みつける。

「機械人形の破壊って、お前たちも含まれるんだろ?」

「当然そうであるが?」

「それってお前達も死ぬことになるじゃないか!」

 思わず感情的になってしまったが、それでもアインは冷静に話す。

「当然である。我々以外の全ての機械人形を破壊した後、私とツヴァイは自爆することとなっている」

「そんなのって……」

 さらに言おうとしたところにアインが被せてくる。

「我々は帝国と共にある。例え国家そのものが滅びようとも、その任務は最期まで遂行しなければならない。そうインプットされている」

 おそらくは帝国の命令は絶対。そう設計されているのだろう。命令だったら喜んで何でもするのだろう。

 しかし何か引っかかる。効率が悪いというか、何というか。その引っ掛かりが何なのか分かるまでにはそう時間が掛からなかった。

「待てよ?機械人形の破壊を命じるなら、そもそも全ての機械人形に自爆命令を下せばいいだけじゃないか?何故マミはそのような命令を受け取らなかったのか……」

 マミを見る。その表情は恐怖と不安が入り混じっている。どう考えても特別指令とやらを知っていたようには見えない。つまり何かしらの妨害があったか、それとも別の何かか。

「それで、そろそろ貴様らの目的を教えてもらおうか」

 しびれを切らしたアインがこちらに投げかける。

「分かった。こちらも話そう」

 いつの間にかマミから僕が答えるようになっていたが、そのまま彼女の質問に答えることとした。

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