魔術
とりあえず一件落着したとはいえ、根本的な問題は解決していない。
「その、あのアインとツヴァイという少女は一体何者なんだ?」
とりあえず一つずつ聞くことにする。
「彼女たちは私と同じ戦闘用機械人形、そのプロトタイプです」
やはり彼女たちも機械人形であったのか。彼女は続ける。
「プロトタイプと言うことはつまり?」
「ええ。データが取れ次第、量産型が生産される予定でした。その前に工場ごと破壊されてしまったようですが」
やはりそうか。ゲルマニアの工業力については身に染みるほど痛感させられていたが、まさかそんな計画があったとは。
しかしここで重大な疑問が湧いてくる。
「しかし何故機械人形何て作る必要があったんだ?」
ここが大きなポイントだ。そもそも僕が彼女のことをただの民間が作った家政婦的な機械人形と誤解していたのにも理由がある。機械人形は戦争など高度な判断が求められる現場においては実践段階になかったからだ。構想自体はあったもののなかなか実用段階に達しなかったのも、科学者であったからには少なからず知っている。
「それについてもきちんとした理由があります。魔術の利用のためです」
「ま、まじゅつ?」
思いもよらぬ単語の往生に思わず面食らってしまった。こんな科学的な話の中にまさか魔術と言う単語が登場するなんて。
「一体どういうことなんだ?」
「ここからはあなたの常識では測れないようなぶっとんだ話になりますが?」
「そんなのとっくに分かってる」
「分かりました。ではお話しします」
すると彼女はわざとらしく「コホン」と咳ばらいをすると、話し始めた。
「魔術と言うのは信じ難いかもしれませんが実際に存在します。ですが現代においてそれらが用いられることはありません。何故だと思います?」
「それは……科学が発展したから?」
「そうです。魔術は科学と比較して大きな欠点があったのです。それは肉体に大きな負荷がかかることなんです」
そこで彼女は銃を持ち上げた。
「例えば攻撃手段としてこのように銃があります。これは相手を簡単に負傷させることができる上にこちらは一切の代償を払わずに使用できます。しかし魔術ではそうはいきません」
すると今度は銃を降ろし、人差し指を立てて見せた。
「例えばこのように……」
そう言うと彼女の指の先から青い炎が吹き上がった。
「魔術を使ったとします。しかし使用するたびに肉体に負荷がかかり、限界を超えてしまうと肉体の機能不全と言った障害が出てきます。さらにこの限界というものが非常に低く、凡人なら十回、どんな天才でも百回も魔術を使うことができないんです」
ふっと彼女が息を吹きかけると炎は消えた。
「しかしそれは人間の肉体に限った話。ならば機械でできた体ならば?ということで誕生したのが私たち戦闘用機械人形なのです」
「そういうことか……」
確かに彼女の言う魔術が本当であるとしたなら、合理的だろう。
「未だに信じられないが、君たちがそういう存在であるということは認めないといけないな」
隅に置いてあったリュックに手を掛ける。
「だからといってこれから僕らが目指すところは変わらないだろ?」
彼女は一瞬目を見開くと、静かに頷いた。
「それにアインとツヴァイの目的も探らないといけないしな。そのためにも今は第一シェルターに向かおう」
そうして重い扉を再び開けると、その先へ続く道を歩き始めた。
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