信頼
彼女の発言はおそらく正しいのだろう。
「びっくりしたよね。でも、本当」
彼女はなおも続ける。
「そうだな、どこから話そうか」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
二度目の制止。息を深く吸い込み、現状を整理する。
「君が、ゲルマニア軍の兵士?何バカなことを。どっからどう見てもこの国、瑞穂国の人間じゃないか?」
しっかり彼女の目を見据える。それに彼女はくすりと笑う。
「焦りすぎですよ、それについても話します。大丈夫、今はもうあなたの仲間ですから」
そう言い彼女は少し歩き、僕の目の前に立った。隠していた不安が広がり、滝のような汗が背中に流れる。
「怖いですか?私が」
目の前にいるのは一人の、それもまだ高校生くらいの少女だ。しかしその秘めたる力を僕は知っているし、さらにはたった今その子が敵国の人間だったことも知らされた。
とにかく何か答えなければと思うが、喉から「ひゅーっ」と微かに空気が通るだけで、何一つまともに話せない。
それを感じ取ったのか。彼女は一歩下がった。
「そりゃあ、そうですよね。人智を超えた力を持っている上に敵国の人間だったなんて」
そう言うと彼女は少し間を置いて、再び話し始めた。
「でしたら一つ、保険を掛けておきましょう」
そうしてポケットから小さな紙を取り出すと、そこに鉛筆で何か書いていた。
僕からは何が書いてあるのかは分からなかったが、十秒も経たないうちに彼女がその紙を渡してきた。
「これは……」
紙には短いカタカナの文章が書かれていた。一読して意味が分からないことからこれはゲルマニア語の発音であると理解する。
「もし、あなたがどうしても私を信用できないというのならそこにある文章を読み上げてください。そうすれば私はすぐに機能を停止しますよ」
なるほど。さきほどあった詠唱の類か。僕は彼女の顔を見る。
一見何ともなさそうに振舞っている。が、その裏側はどうだろうか。それにこの文章を教えるということは自分の心臓を相手に差し出すことと同じくらいリスクのあることだ。
「これは、本物なのか?」
「試してみます?」
微笑みながらそう答える。
もしこれが本当なら、そうなのだとしたら彼女は僕のことを信用しきっていると判断していいのだろうか。
微笑みながら待つ彼女。もう時間はない。
賽は投げられた。大きく鼻で息を吸い込むと僕は大きく口を開け、丸めた紙を口に放り込んだ。
「え?」
あまりの突飛な行動に彼女の表情が驚愕へと変わる。それを無視しながら僕は一ミリもおいしくない紙を咀嚼し、飲み込んだ。
「あの、何やって……」
「悪かった」
そしてすぐさま深く頭を下げた。見えなくても彼女の反応はだいたい予測できた。
「何で食べたんですか?」
当然の疑問を彼女は投げかけてくる。
「君は僕を信用してあの紙を渡した。ならこちらもマミ、君を信用していると示さなければならない」
ちょっとかっこつけてみたが、どうもさまにならない。
「でも食べる必要はなかったんじゃ……」
「破っても断片が残るから完全に消し去ることはできなかったから」
そう言うと、彼女の顔は僕の知っているあの呆れたような表情へと変わっていた。
「ほんと、頭がいいのか悪いのか」
彼女は嘲笑しながらそう言った。しかし雰囲気は先ほどの重々しいものとは違う、以前と同じものに戻っていた。
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