出発
そうして迎えた出発の日。いつものように白衣を羽織るとさっそくガレージへと向かった。
先にトラックに乗り込んでいた彼女が本を読んで待っていた。
「ちょっと遅れてごめん」
「別にいいですよ」と本から目を離さずに彼女は言う。
何も僕らを取り締まる存在はないが、一応シートベルトをする。彼女にもするように言おうとしたが既にしていた。
「じゃあ、出発するぞ」
エンジンをかけ、慣れないトラックのハンドルを握る。そのままトラックは前進し、砂の上を進んでいくのだった。
道を覚えるのは割と得意だったので迷うことなく第二シェルターの入り口に着く。前回よりも入口の形が歪んでいるのはゲルシーのせいであろう。
トラックから降りると、早速その入り口に向かう。階段はかなりダメージを負っていたものの、何とか行き来することはできそうだった。
白衣の胸ポケットに入れておいた暗視薬を口に放り込み、薬独特の苦みが口の中に広がる前に素早く飲み込む。瞬間的な頭痛に襲われながらも視界がだんだんと青写真のような、色のはっきりとしない景色へと変わっていった。
薬が効いてきたことを確認して、トラックから必要最低限の物を詰め込んだリュックサックを二つ降ろした。
「ほら、君のだ」
その内の一つを乱雑に彼女に投げる。
「ちょっと、物渡すときはちゃんと……って重っ!」
そう言いながらも彼女はきちんとキャッチした。
「なんでこんなに重いの……」
リュックサックの中身を確認しながら彼女が僕に抗議する。
「そりゃあまあ、いつここに戻ってこられるのかも分からないし。それにほら……」
そこでさらに物騒なものを荷台から降ろした。
「こいつも持ってくつもりだし……」
「それって……」
彼女がまじまじとそれを見る。黒く、それでいて目的のためだけに洗練されたボディ、まさしくそれは……
「自動小銃……ですか」
「まあ、護身用にな」
これからもゲルシーのような怪物がいない保証はない。それに遭遇するかもしれない人々が友好的でない場合もある。そのためには物騒ではあるが、何かしら身を守るものがあったほうがいいだろうと思ったのだ。
「拳銃とかじゃダメなんですか?」
「あんなのじゃあ化け物に通用しない。本当はレールガンを持っていきたいところだったんだがね」
そこで僕は荷台にある、これまた大きな黒い塊を指差した。
前回交戦した際に用いたレールガン。確かに高威力ではあるが、もともとプロトタイプであったが故の信頼性。また持ち運びが困難であることから今回はあくまで最終手段とすることとなった。
「それと、あの日本刀もどきも改良して持ってきた。どちらか好きな方でもいいから護身用に持っておいてくれ」
すると彼女の表情が曇った。無理もない。まだ少女である彼女が武器、それも殺すことのみに焦点を当てたものに拒否反応を示すのは当然であろう。
最悪彼女が受け取らなくても構わない。もしもの時は僕が戦えば――。
彼女は一瞬僕の目を見つめると、
「……どちらも貰っておきます」
と、小さく言った。背中を冷や汗が伝った。
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