下準備(3)
翌朝、ガレージには物資が山のように積まれた砂上用トラックの姿があった。
僕と彼女は二人して汗をかきながらさらにあれやらこれやら載せていく。いや、彼女は汗をかいてないかもしれないが。
「こんなにいっぱい必要ですか?」
両脇に段ボールを抱えた彼女が聞いてくる。
「備えあれば憂いなしと言うだろう」
「それにしても多すぎますよ!かれこれ二時間はこの作業やってますし!」
「それは……そうかもしれないけど」
反論し難い質問を投げつけられてしまったが、ここは何とか納得させなくてはならない。ちょうど近くにあった細長い箱を開けると、その中のものを彼女に見せた。
「ほら、このレールガンとか必要だろ?それにちゃんと改良したんだ」
「いや、今度は私負けませんので必要ないと思いますけど」
そう言うと彼女はトラックの下に手を突っ込んだ。
「見ててください!」
そして腰を落とすと、少しトラックを持ち上げて見せた。
「君の力は分かってるけど、あの皮膚を貫通することができなければ意味ないだろう」
「むむ……確かに」
痛いところを突かれて彼女が口ごもる。
「しかも俺たち以外の人がいた場合食糧とかは余分にあった方がいいだろう?ならこれも仕方ないさ」
「い、一理ありますね。仕方ないので認めます」
まだ何か言いたそうな感じもしたが、再び段ボールを持つと積み込み作業に戻っていった。
それからさらに二時間、そのころにはさすがに積み込みも終わっていた。
これから行く末の分からない長旅で、いつ入浴できるか分からないため交代で風呂に入ると遅めの昼食を取った。
先に入浴し終わってソファーでくつろいでいると彼女が部屋に入ってきた。それだけ見ると本当に人間と変わらないのだが……。
「あれ?」
何か違和感がある。と言っても悪いようなものではないが。
「気づきました?」
そう言って彼女は髪を手でなびかせた。はらりと艶のある黒髪が踊る。
「ああ、髪を切ったのか」
「『ああ』って何ですか!もっと驚くところじゃないですか?」
風呂上がりであるのか、それとも怒りからか頬を紅潮させて彼女が叫ぶ。ショートカットであるから少し新鮮だ。
「いやだって……失恋でもしたのかなって?」
「人類滅んだの知ってますか?そんなわけないでしょ?」
彼女の怒りは収まらない。
「そうだ、紅茶を見つけたんだよ!飲みたがってたじゃないか!」
そう言って紅茶の紙袋を彼女に見せる。前になかったのは単に探してなかったからとは言わなかったが。
「え、あったんですか」
途端に顔色が変わると、彼女は紙袋を受け取って早速紅茶を淹れる準備を始めた。
案外彼女が単純なやつで助かった。それにしても女心というものは全く分からないものだ。
氷が溶けて少し薄くなったアイスコーヒーを飲みながら、どんな反応をすればよかったのか考えてみることにした。
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